FURIMUKI style
1999.5

遂にL.E.D参戦!GOTTAMIX発売
ナハナハvsガチョーンバトルを作った男たち

2021年2月11日 最終更新2022年11月26日

 1999年春、アーケードでは五鍵ビートマニアがcomp1で一つの区切りを迎え、新路線として4thMIXがリリースされていた。そんな中、初の家庭用オリジナル作品GOTTAMIXが発売された。

 このGOTTAMIXは著名ミュージシャンの書き下ろし曲や、せんだみつお氏と谷啓氏が登場する「NaHaNaHa vs. Gattchoon Battle」など話題性も高く、ゲーム雑誌のみならず音楽専門誌でも紹介されるほどに注目を浴びることになった

 時系列的には他の記事と前後する部分もあるが、今回は家庭用3rdMIXとGOTTAMIXをまとめて見ていきたい

もうひとつの3rdMIX mini

 「3rdMIX mini」と聞くと、AMショー'98で出展されたアーケード版3rdMIXの小型版筐体を思い浮かべる方も多いだろう。実は、家庭用ビートマニアにはもう一つの3rdMIX miniが存在する

 アーケード版3rdMIXのサントラ(1998年11月27日発売)に付属している「APPEND 3rdMIX mini」である。

この3rdMIXサントラにPS1用アペンドディスクが付属している。当然ながらアペンドディスク単体は非売品である。

 このアペンドディスクの正体は家庭用3rdMIXの体験版で、3rdMIXの楽曲から5曲が収録されている。しかし、フレームやノーツ等の画面構成は2ndMIX準拠となっており、スクラッチノーツは3rdMIX特有の極太仕様ではない。また、BGAも2ndMIXの素材を使った独自の物になっているのが特徴である。

新曲のうち3分の1が収録されてるとか大盤振る舞いだな!
当時のプレイヤーならサントラ買った人は多いから、このアペンドディスクはけっこう出回っている印象

タイトル画面もちゃんとmini版が用意されている。なお、スタッフロールには誰の名前も流れず「PRODUCED BY KONAMI」としか表示されない。

家庭用3rdMIX─物議を醸したユーロと新専コン

 1998年12月23日に発売されたPS1版beatmania APPEND 3rdMIX。ミリオンヒットとなったPS1版2ndMIXの発売から僅か3か月弱でリリースされた本作を、各ゲーム雑誌は大きく扱っている。その中でも「ザ・プレイステーション」1999年1月22・29日号の記事では、3rdMIX収録曲の音楽性の変化について分析しており、興味深い内容となっている。

ザ・プレイステーション1999年1月22・29日号。3rdMIXの特徴として「日本語ボーカル」「ノンジャンル化」を挙げている

”親しみやすい(日本語の)歌モノ”と”最先端のクラブミュージック”といった二極化する音楽ジャンルを内包しつつ、前作とは違う新たな音楽の方向性を打ち出した

「~3rdMIX」に収録されている音楽はあまりにジャンルがバラバラで、ある意味「節操がない」

前2作の流れから、3作目はよりコアな方向性に行くのではと思われていたが、実際に我々の前に現れた「~3rdMIX」は、よりノンジャンル化が進んだ作品となっていたのである。

この理由は、ひとえに「beatmania」シリーズがもはや”DJシミュレーション”というパーティーゲームの枠を跳び越え、”人々が集う場を盛り上げるための音楽ツール”として進化しているため、と考えられる。

ザ・プレイステーション 1999年1月22・29日号
3rdMIXの時点でこの考察に辿り着いているザ・プレ編集部

 一方で、製作者サイドは3rdMIXの音楽的な路線についてどのように考えていたのだろうか。2つの興味深い記事がある。

 1つ目は外注アーティストの起用方針について。週刊ファミ通に開催された南雲氏へのインタビューでは、クラブサウンドとゲームの両方を理解した人物に依頼していると語っている。

─流行った理由とも思われる『ビートマニア』の曲ですが、作曲者の起用はどんな風に?

南雲:クラブ系サウンドの概念を持ったゲーム好きなかたで、しかも、僕らサウンド担当が好きそうな曲を書いてくれる人にお願いしました。かなりシビアな条件ですよね(笑)

 あと、実際に叩いて楽しいか。これが決め手となる重要な要素のひとつですね。

週刊ファミ通 1999年3月26日号
クラブ系サウンドを扱えるゲーム好きな人材…今なら沢山いるような気がするけど、当時はシビアな条件だったのか…

 2つ目は3rdMIXに収録されている音楽ジャンルについてである。コナミ公式攻略本「ビートマニア プレスミックス」の開発者インタビューでは、これまでに扱っていなかったジャンルとして実験的にユーロビートやJ-ダンスポップを収録したと書かれている。

 これらの記事から、3rdMIX時点でのアーケード版サウンドスタッフの方針としては、クラブミュージックを軸に多様なジャンルを収録していこうとしていたことが分かる。

HIRO氏:「3rd」はあえて冒険的に、ユーロビートやJ-ダンスポップを入れてみました。これも単純にライトユーザーに迎合したというよりは、「beatmania」の実験のひとつです。

南雲氏:ユーロビートは、ホームページで「実は『2nd』の隠し曲にユーロビートが入ってる」というウワサがありまして、そういった声に答えるべく作ったんですけれど。

水木氏:それが成功しているかどうかは別として

南雲氏:別として(笑)

ビートマニア プレスミックス
「成功しているかどうかは別として」ってどういうこと?
当時、ユーロビートやJ-ダンスポップは物議を醸してたからねぇ…

南雲氏:インターネットの書き込みはスタッフ全員が見てます。「EURO BEATを入れろ!」とか「EURO BEATなんか入れやがって!」とか(笑)。

ビートマニアCSオールガイド

 3rdMIX収録曲の中でもユーロビート「LUV TO ME」と、J-ダンスポップ「BELIEVE AGAIN [HYPER MEGA MIX]」は、「beatmaniaらしくない」という批判の声もあった。

J-POPは何となく分かるけど、ユーロビートがビートマニアにふさわしくないジャンルって思われてたの?

 プレイヤーの間で物議を醸した「ユーロビートはビートマニアに相応しくない論争」を理解するには、当時のディスコ・クラブの状況を踏まえておく必要がある。

 当時の日本は第二次ユーロビートブームの真っただ中であり、ユーロビートはディスコで流れている音楽というイメージだった。

 しかし、ゴージャスな内装や女性客の過激な衣装といった「場の雰囲気」を集客要素としていくようになったディスコに対して、カジュアルな雰囲気で自分の好きなジャンルの音楽を楽しめるクラブが台頭してくる。

 クラブの集客要素はメインDJ(レジデントDJ)によるイベントであり、当時は主にテクノやレゲエ等のジャンルが扱われていた。つまり、「ユーロビートはディスコの音楽なので、クラブを題材にしたビートマニアには合わない」ということで批判が出たのだろう。

ユーロビートは俗っぽい音楽ってイメージだったのか…

 アーケード版3rdMIXで物議を醸した「ユーロビート」や「J-POP」というジャンル。しかし、家庭用3rdMIXでは「日本語歌詞の曲があってして親しみやすい」という感想もあったようだ。

 アーケード版よりも幅広いユーザーがプレイする家庭用移植版では、クラブミュージックではない楽曲を収録することがプラスに働いたのではないだろうか。

ザ・プレイステーション1999年2月12日号。様々なジャンルを収録したことでプレイヤーの幅が広がるというメリットもあったと思われる。

Believe againは当初「ビートマニアの世界観と違う」って作り直したってエピソードもあるよね

 社内の者に書かせたら、希望したものとは解釈が違う物ができあがってきまして(笑)。80年代ジャパニーズポップになってしまったんですね。「ちょっと「beatmania」の世界観とは違うだろう」ということで、僕がリミックスしました。

 開発スケジュールが押しせまっていたので、8時間くらいでヴォーカルセクションだけ全部作り直しました。だから、フューチャリングdj nagureoということになっているんです。(dj nagureo)

ビートマニア プレスミックス Believe againの楽曲紹介
作り直す前の原曲が、3rdMIX隠し曲の「80'S J-POP」の方だね
作り直したけど、結局は当時物議を醸してしまったのかぁ…
シティポップブームが来るのは、まだまだ先の話…

 この家庭用3rdMIXが発売された翌月の1999年1月31日に、コナミから専用コントローラー「DJ Station PRO」が発売される。この専コンは、アスキーコンと比べてターンテーブルは回しやすくなり、アーケード同様に鍵盤が光る仕様になっている。

コナミ年鑑'99よりDJ Station PROの紹介。質感も向上し、イヤホンジャックも搭載されている。鍵盤は接点ゴム方式。

 しかし、アスキーコンの発売からわずか4か月後に上位互換の専コンが発売されたということで、アスキーコン購入者からは「最初からこっちを出せばよかったのに」との声が上がってしまう。

 家庭用2ndMIXの記事でも触れたように、元々専コンはコナミが作る予定だったが、家庭用2ndMIXの発売日に間に合わせることができないため急遽アスキーに外注したという経緯がある。おそらく、当初コナミが作ろうとしていた専コンがDJ Station PROだったのだろう

家庭用2ndMIX発売時にはDJ Station PROの存在は伏せられていたからなぁ…
DP用にアスキーコンを二台買っちゃった人もいるし、もう少しどうにかできなかったのかなぁ
家庭用2ndMIXの発売を4か月遅らせることもできず、DJ Station PROを4か月早く完成させることもできなかったってことなんだろう…

GOTTAMIX─L.E.D.参戦!ナハガチョ制作秘話

家庭用完全オリジナルAPPEND!悩むTogoシェフ

 PS1版ビートマニアを手掛けるKCEジャパンでは、1999年5月27日に初の家庭用オリジナルAPPENDディスクとしてAPPEND GOTTAMIXを発売する。

GOTTAMIXサントラ。GOTTAは「ごった煮」の意味で、ブックレットでは藤後氏が「TOGO料理長」として掲載されている。

ビストロ”GOTTAMIX”へようこそ

グルメなあなたにお贈りする珠玉の1枚

そのお耳で存分にご堪能あれ

GOTTAMIXサントラ ブックレット
GOTTAは「料理」、GOTTA2は「世界各地の音楽」。つまり、IIDX 28 BISTROVERは実質GOTTA3ってわけ

 サウンドオーガナイザはYebisuMIXを担当したTogo氏が続投することになったが、どのような方向性にすべきか相当悩んだという。そんな中で生まれたのが、タレントのせんだみつお氏と谷啓氏をDJに見立てた楽曲「NaHaNaHa vs. Gattchoon Battle」だった。

「GOTTAMIX」の企画当初、楽曲の方向性を考えていました

今回PS版オリジナル楽曲ということで、ゲーセン人気にはあやかれないし、制作費が湯水のようにあるわけでもなし…しまいには半ノイローゼ状態(いゃホントに)、家で鬱々とお酒などをなめつつ出てきた逆ギレ(?)アイデアでした。

GOTTAMIX公式サイト 楽曲コメント"NaHaNaHa vs. Gattchoon Battle"

 藤後氏はこれまでのビートマニアの路線とは異なるジャンルの楽曲を手掛けたいと考えていたようだ。

 アーケード版3rdMIXで南雲氏らがJ-POP等を収録するなどジャンル面で収録曲の方向性を模索していたように、家庭用チームの藤後氏もアーケード版とは別の形で楽曲の多様性を模索した結果、「音を出すことが面白い」という着眼点から生み出されたのが、この楽曲だった。

ビートマニアのプロジェクトが進んでいく中で、アーティスト性を求めて、スタイリッシュな方向にいったり、マニアックな方向に進んでいるような気がしてたんです。なんかそれじゃおもしろくない。くだらないんだけど、ちょっと下世話だったりしてもいいからおもしろいことがやりたくなったんです。

飲み屋で飲んでいる時にふと思いついたアイデアを企画書にまとめてぶつけてみたんですよ。音を出すことにおもしろさがあるビートマニアで、せんださんの「ナハ!」っていうのと、谷敬さんの「ガチョーン」というのが、リズム的にハマるんじゃないかなって思いついたんです。

キーボードスペシャル 1999年6月号
これってつまり「キー音に声ネタを割り当てると面白いんじゃないか」って考え方だよね
家で飲んでて思いついたのか、居酒屋で飲んでて思いついたのかどっちなんだ!
半ノイローゼ状態だったので勘弁してあげて欲しい…

 GOTTAMIXの目玉となるNaHaNaHa vs. Gattchoon Battleの企画は、社内ではおおむね好評だったようで、企画書は順調に通っていった。

最初は、みんなおもしろがってくれたんですけど、そのうち、“スベったらどうするの?”つまり失敗したらどうするのかということですね。そんな意見も出てきまして。

でも、自分でやりたいことをやってやろうと思ったんです。結果としてとてもおもしろいものが仕上がったと思います。

キーボードスペシャル 1999年6月号

ちょっとずつちょっとずつ、サウンド室長、チームリーダー、そして副社長という順序で、ちらっちらっとパンチラのごとく小出しに、恐る恐る企画書を見せていった…すると意外にも反応は良く、なんとGO!ということになった

しかし、副社長が最後にボソッと言われた「すべっても知らんでー」という言葉には、少しビビった小心な私であった。

GOTTAMIX公式サイト 楽曲コメント"NaHaNaHa vs. Gattchoon Battle"
"スベったらどうするの発言"の主は副社長だった!
KCEジャパン…関西弁の副社長…これはまさか!
監督ならこういう冗談言いそう…
これまでビートマニアでネタ曲なんて無かったわけだし、Togoシェフも内心不安だったのかー

 こうして完成したNaHaNaHa vs. Gattchoon Battleは、GOTTAMIXの目玉楽曲として各メディアで紹介されることになる。当時は映像でのプロモーションは難しく、音を伝えることができないゲーム雑誌等の紙媒体では、芸能人が登場するという話題性は販促上も大きなメリットがあったものと思われる。

デモトラックを作曲し、おおまかなシナリオ&絵コンテもできあがり、いよいよ御大お二方のボイス収録ということになった…

当日、大物芸人のお二人に、芸能界に不馴れな我がコナミの社員たちはコチコチ状態であったが、せんださんの場の雰囲気を和らげる気づかい、また谷啓さんのどんな要求にも答えてくれる真摯な姿勢に、カンドーした我々であった。

GOTTAMIX公式サイト 楽曲コメント"NaHaNaHa vs. Gattchoon Battle"

せんださんもすごくノッってくれて、『できましたか?』みたいな電話を何回もいただいたりもしました

ビデオを回して、お2人に演技してもらって、リズミカルに2人がうまく噛み合う部分をチョイスして、カット毎に編集して合わせました。

ご本人たちにはまだ見せていないのですが、せんださんの画像でかなり遊んでしまいましたから、本人に怒られるんじゃないかな。でも、生のガチョーンをカメラに収めることができたわけですから、僕にとっては一生モンですよ、これは

キーボードスペシャル 1999年6月号

GOTTAMIXオープニングムービーでも一瞬だけ登場するDJ Sendaさん。

 Togo氏がせんだみつお氏を起用したのは、当時流行っていた「せんだみつおゲーム」の影響があるものと思われる。

 1996年から1997年にかけて「せんだみつおゲーム」という遊びが若者の間で流行っていた。合コンの余興等で使われており、当時の若者にはナハナハというネタは身近なものだったのだ。

ホットドッグプレス 1998年1月25日号に掲載されている「最近流行っているゲーム特集」。なお、この記事の隣にはアーケード版ビートマニア2ndMIXが掲載されている。

1970年代のギャグが、脈絡もなく1996年に流行ったという謎現象かー
シブヤ界隈で人気だったのは、あながちウソではなかった!

ハードすぎる異端の遺伝子ゲノム

 これまでのビートマニアシリーズに無いジャンルを収録していくという方針を打ち出したGOTTAMIX。Togo氏は数々の外注アーティストにオファーしていく。「小室哲哉の右腕」と言われた久保こーじ氏、「m.c.A・T」こと富樫明生氏等、音楽業界で活躍するアーティスト達。

 そして、かつての部下でありYebisuMIX制作時にオファーを断られてしまった角田利之氏(以下L.E.D.氏)にも再度アプローチを試みる

L.E.D.氏:もう声かけてもらえないだろうなと思ってたら、非常にありがたいことに、もう一度チャンスをもらえたんで。

Togo氏:当時、角ちゃんの音楽とかはね、まだ異端だったよね。俺の中では、GOTTAMIXの中では、変な言い方だけど「ちょっとハード過ぎるぐらいなキワモノの弾」として考えてたんだよね。

【電人 K】L.E.D. トークセッション vol.12 Togo-chefより書き起こし
ハードコア枠としてどうしても欲しかった人材!

 L.E.D.氏はこのオファーを受諾する。実は、L.E.D.氏はこのオファーが来る前から既にビートマニアをプレイしていたという。

L.E.D.氏:これは自分がKONAMIに入る前の話なんですが,この業界にはいて,beatmaniaというゲームが話題になっているというのを耳に挟んだのが最初ですね。

L.E.D.氏:その頃は横浜にいたんですが,横浜駅周辺ってゲームセンターがすごく多かったんですよ。そんな中に,beatmaniaを外に設置しているお店があって,店頭に人だかりができていたのを覚えています。

4Gamer.net IIDX 20 tricoroインタビュー
店の外にビートマニアを置くとか、ずいぶんフリーダムなゲーセンだな!
フリーダムなゲーセンは2018年に閉店してしまったのだ…

 L.E.D.氏はTogo氏から、これまでビートマニアに収録されていなかったジャンルというオーダーを受け、「サイケデリックトランス(GENOM SCREAMS)」「ガバ(HELL SCAPER)」を提供。更に、オープニングムービー用の楽曲として「ワープハウス(OVERBLAST!!)」を制作した。

L.E.D.氏:当時Togoさんから「今までにビートマニアに入って無かったジャンル」って言われてたんで。

Togo氏:(アーケード版では)まだヒップホップとかハウスとかだったね。

L.E.D.氏:家でビートマニアを…オファーが来る前からやってたんですけど、改めてやって(あ、もう結構やられちゃってるなぁ)って感じだったんですよ。でも「まだあるはずだ!」と思ったんで。

Togo氏:当時ってアーケードチームとコンシュマーとで部隊が違ってたんで、「向こうに無いものを」て言って。「隙間産業」とか俺言ってたけど。「無いジャンルをどう突いていくか」「アーケードには無い、ちょっと違う魅力を発掘していこう」みたいなノリがすごい強かったよね。

【電人 K】L.E.D. トークセッション vol.12 Togo-chefより書き起こし

 GOTTAMIX発売日の翌月、L.E.D.氏はKCEジャパンに入社する。二度のすれ違いはあったものの、こうして遂にL.E.D.氏がビートマニアに参戦することになった。

 以後、L.E.D.氏はKCEジャパンの社員として家庭用ビートマニアの楽曲に携わり、IIDX 18 ResortAnthem以降はアーケード版IIDXのサウンドディレクターを担う主要メンバーの一人となっていくのである。

L.E.D.氏:KCEジャパンに入社したのが1999年の6月16日なんですよ。

L.E.D.氏:GOTTAMIXが終わって(家庭用の)4th…しかも(家庭用の)4thもゲーム自体はほぼ出来ててデバッグをやる頃に正式に入社したんですよ。

【電人 K】L.E.D. トークセッション vol.12 Togo-chefより書き起こし

DOLCE.危機20連発で何度も「ナハナハ ガチョーンBATTLE」と回答するL.E.D.氏。入社のきっかけになったGOTTAMIXに対する思いが感じられる一幕。

つまり、「GENOM SCREAMS」と「HELL SCAPER」は外注曲だったってことか
「OVERBLAST!!」は作った時は外注扱いだったけど、プレイできるようになるCS5thMIXの時は社員という微妙な立ち位置

 なお、L.E.D.氏の楽曲が初めて収録されたのはアーケード版4thMIXの「GENOM SCREAMS」だが、元々この曲はGOTTAMIXの楽曲として制作されており、4thMIXではあくまで先行収録という位置づけである。4thMIX公式サイトでも「プレステ(GOTTA MIX)からの移植曲です」と書かれている。

4thMIXで外注アーティストとして初めてL.E.D.氏が提供した「GENOM SCREAMS」だが、あくまでGOTTAMIXの楽曲。ちなみに、IIDX 30のProgrammed GenomのムービーもGOTTAMIX準拠。

KONAMI magazine vol.10に掲載されているGOTTAMIXの記事。HELL SCAPERのジャンル名が「GABBA」になってしまっている。

ヘルスケは「GABBAH」なのに!
ゲノムはちゃんと「PSYCHEDERIC TRANCE」になってるんだけどなぁ…

音楽雑誌も注目するGOTTAMIX

 音楽雑誌「キーボードスペシャル」1999年6月号に、GOTTAMIXの記事が掲載されており、Togo氏がコメントをしている。音楽雑誌だけに、トラックデータの納品の仕方や、どの音をキーにアサインするかなど専門的な話題についても書かれている。

キーボードスペシャル 1999年6月号。音楽雑誌だけに、少しマニアックな点まで触れているのが特徴的。

 このキーボードスペシャルには、久保こーじ氏や松前公高氏もたびたび登場している。GOTTAMIXの特集記事が掲載された背景には、彼らがGOTTAMIXに楽曲提供したことも影響しているのではないかと思われる。

 この記事の中でTogo氏は、ゲーム音楽でもクラブサウンドが流せるんだということを広く伝えたかったと語っている。

信じられないことなんですが、いまだにゲーム・ミュージックというとチープな感じのピコピコ電子音で演奏されているんじゃないかと思っている人が多いんです。

『ビートマニア』では、ゲームの音楽もここまで来てるんだ。もはや、一般音楽と比べて遜色ないレベルで最新のクラブ・サウンドが出せるんだ。という事実を広く知らせたい、という気持ちが強いですね。

キーボードスペシャル 1999年6月号
8bitのピコピコ音がノスタルジーを喚起する時代はまだ先か

 また、PS1版ビートマニアの音源や、音飛び補正プログラムなどマニアックな仕様についても触れられている。

プレイステーション版では楽曲の再生の方法として、音質的に音楽CDにとても近く、さらに再生をプレステの心臓部であるメインCPUでプログラム制御できる、CD-XA(CD規格の一種)というデータ・フォーマットを採用した。プレイヤーのボタン操作による演奏には、プレステ内部の簡易サンプラー音源を採用している。

この2つの音源方式を使うことによって、クラブのDJがターンテーブルでプレイされるBGMに、サンプラーで音をトッピングしたり、キーボードでフレーズを加えたり、リアルタイムでミキサーをスイッチングしたりというのと同じ気分をバッチリ楽しめる

キーボードスペシャル 1999年6月号

夢中になってプレイして、プレステ本体が揺れて音飛びしても、プログラム的に補正がかけられて再生がずれないようになっているみたいです

キーボードスペシャル 1999年6月号

 さらに同誌では、「『GOTTA-MIX』の制作過程を紹介しよう」と題し、コンポーザーとの楽曲データのやり取り・加工・BGAの作成等について、制作現場の行程をかなり詳細に紹介している。

 制作手法についても、Pro-toolsを活用している等の具体的な内容が書かれており、音楽雑誌ならではのと切り口といえるだろう。

キーボードスペシャル 1999年6月号。コンポーザーから届いた楽曲データが加工されていく流れが紹介されている。

2021年2月8日放送の「musicるTV」でもPro-tools使ってる映像流れてたし、いまだ現役か!

コンポーザーによってデータの形式はさまざまでした。ある方はDATに1トラックずつ、最初から最後まで通して録音してくれました。それをPro-Tools上にデジタルで取り込むわけですが、どうしても微妙なズレなどが発生したり、ミックスのバランスが再現できなかったりすることもあって、コンポーザーにつきあってもらうこともありました。

Pro-Toolsのマルチ・トラック・データで出してくれる方もいました。こういった場合はデータにする手間はないのですが、トラック数は整理するのに苦労することも多かったですね。

あるいは、松前さんのように、ボタンで演奏する部分と、バックの部分を完全に分けてデータを出してくれる方もいたりして…。これはとてもラクですね。僕も曲を作るときからすでに、どこをボタンで演奏しようかということを考えて曲作りをしています。(藤後氏)

キーボードスペシャル 1999年6月号
松前さんはパーフェクトな納品をしてた!
「JAUNTY BOUNTY」の作者だね

 譜面を制作している間に、BGA(画面中央のアニメーション)を作成していく。PS1版VJチーフの八代氏によれば、鍵盤操作とシンクロするように作ることを心掛けていたようだ。

曲を演奏しながら、絵も作り出しているような感覚になれるといいんですよね。自分がこのアクションでこの音を出したからこういう絵が出たみたいにね。

絵の立場からこうしてやろうなんて肩ヒジはらないで、曲のストーリーに身を任せる方がいい結果が出せる気がしますね。

テクノ・ユニットの人気アーティスト、たとえばアンダーワールドやコールド・カットのビデオを見たりしますよ。とくにコールド・カットのビデオはとても『ビートマニア』的だったですね。音を楽しめるビデオというか…。プレイヤーが演奏でキメるだけじゃなく、自分の演奏がこういう絵を引き出したんだ。って思えるような演出を考えたいですね。(八代氏)

キーボードスペシャル 1999年6月号
IIDXの操作に連動して表示されるレイヤーも、この発展形ってことか

 そして、譜面を作成していく作業(キー音を切る作業)についても、譜面データを実際に手掛けた花岡氏がコメントしている。この時代に譜面データの作成について触れている記事は貴重である。

 このコメントによれば、譜面製作者も2P譜面を二人でプレイする前提で作成しており、DPとして遊ぶことはあまり考慮されていないことが伺える。

曲の中で耳に飛びこんでくるフレーズをボタン演奏に割り当てるんです。例えば、バックのピアノが両手を交互に弾くパラディドル奏法だったので、これはボタンにするしかないでしょう、と思いました。単純に5つの鍵盤に割り当てても平坦な繰り返しになってしまうので、ボタンの配置に揺らぎをつけて指の動きをさらにおもしろいものにしました

Pro-Toolsに取り込み、おおまかにバックの演奏と、ボタンの部分を決めた時点で、2Pプレイ(2人でプレイすること)の事を考えてエフェクトをかけつつボタン音を切り出してます

1P(ひとりプレイのこと)データの演奏データができた時点で2Pのことが延長でできるときは、比較的ラクですね。1Pと2Pでなるべくつり合いがとれるように、交互にフレーズを割り当てたり1Pと2Pのアンサンブルを感じることができる箇所も用意するんです。(花岡氏)

キーボードスペシャル 1999年6月号
譜面制作スタッフも、DPを2人でプレイする譜面にする気満々だぞ!
松前さんが勘違いしていたんじゃなくて、当時の制作現場がこういう認識だった可能性が…
最凶のDPH譜面が生み出されてしまうのは必然だったか…

松前公高氏が提供したJAUNTY BOUNTYのDP譜面は2人で遊ぶことを想定していたため音数が増え高難度になっている。後に家庭用IIDX4th style収録されたGOBBLEは、今なおDP譜面の最上位クラスに君臨する。

GOTTAMIXの功績

 アーケード版ビートマニアがクラブミュージックを軸にジャンルの幅を広げていったのに対して、GOTTAMIXはクラブミュージックにとらわれず幅広いジャンルを収録して、PS1を所有するライトユーザー層にも親しみやすい楽曲を収録することで差別化を図った。

その一方でL.E.D.を起用してアーケード以上に攻撃的なジャンルを入れてきたわけだ
お茶の間にガバキックを響かせた男!

「ザ・プレイステーション」1999年12月10日号の「PS100人委員会」ではGOTTAMIXをプレイした人達の様々な声が掲載されている。

「オレはビートマニア(男17才/大阪府)」が時代を先取りしている!
APPENDのセーブデータ上書き問題が早速浮上してる…
幅広いジャンルが支持されてる。GOTTAMIXで収録曲のバリエーションが増やしたのは正解だったね

 一方で、GOTTAMIXは様々なアーティストにも大きな影響を与えている。DJ TECHNORCH氏の「ヘルスケイパーは私の人生だ。」は有名だが、もう一人HELL SCAPERで人生を変えられた男が存在する。まだ楽曲公募に受かる前のkors k氏である。

kors k:速い!速すぎる!初プレーのときが今でも衝撃的で人生変わってしまったほど大好きです!

BEMANI MUSIC FOCUS アーティストコメント"kors k"

kors k:L.E.D.さん、いやL.E.D.LIGHTさんの楽曲から本当に多くの刺激を受けました。特にHELL SCAPERとGENOM SCREAMS、THE EARTH LIGHTの3曲を初めて遊んだ時の衝撃はひっくり返りそうなほどでした

IIDX 30 RESIDENT 楽曲コメント"Programmed Genom"
つまり、ヘルスケの影響が無ければSigさんも生まれてこなかったわけで…
私の人生もヘルスケだったのか

 猫叉Master氏もGOTTAMIXの影響を受けたアーティストの一人である。氏はNaHaNaHa vs. Gattchoon Battleを聴いて、ビートマニアはこういう楽曲もアリなのかと衝撃を受けたという。

猫叉氏:昔のバージョンに,谷啓さんとせんだみつおさんがコラボした楽曲があったじゃないですか。ナハナハとかガチョーンとか鳴りまくるっていう。

猫叉氏:あれを見たときに,自分の中で何か壊れた音がしましたね。こういうのもアリなんだって。だってボタン押すと,ナハナハとかガチョーンとか言うんですよ(笑)。

4Gamer.net IIDX 20 tricoroインタビュー

 後年、ビーマニシリーズに楽曲提供をしていくアーティストからも、最初に触れたのは家庭用作品だったという人は多い。家庭用ビートマニアは多くの人に音ゲーを触れる機会を与え、親しみやすい楽曲群でファンを増やし、コアなクラブミュージックの世界への橋渡しをしたのである。

kors k:僕は高校受験を控えていた中学生のとき、塾をサボって友だちの家に入り浸っていて。そこで初めて家庭用の『beatmania』をプレイしたのがきっかけですね。

Ryu☆×kors k対談 外部コンポーザーの視点で語り合う「BEMANIシリーズ」の魅力

OSTER:私は小学6年生のときでした。初めてプレイした音楽ゲームは、BEMANIシリーズの「DanceDanceRevolution」(以下「DDR」)ですね。友達が家庭用のDDRを持っていて、やらせてもらったらハマって

Hommarju:僕も小学生ですね。家庭用の「5鍵」と呼ばれる一番最初の作品を買ったのが始まり

OSTER project × Hommarju x P*Lightインスト音楽座談会
今はINFINITASとULTIMATE MOBILEがこの役割を担っているのかー
再現度無視の超エントリー専コンをアスキーに作ってもらうしか!

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