FURIMUKI style
2001~2002

五鍵の終焉、全てを託されたIIDX
炎上するタオル

2023年10月14日

 2001年、全盛期を迎えていたIIDXはコンスタントに新バージョンを投入。システムやUIの刷新を図り一つの完成形に到達した

 一方で、五鍵ビートマニアは6thMIX以降アンダーグラウンド路線を歩みIIDXと差別化を図るも、基板性能の限界を迎えつつあり、2002年にTHE FINALとしてフィナーレを飾ることとなった。

 ビートマニアシリーズの歴史において激動の年となった2001年から2002年を振り返っていこう。

THE PRIMARY VIVID!豪華絢爛な6th style

dj TAKA氏が辿り着いた到達点

 IIDX 6th styleのキャッチコピーは「艶~THE PRIMARY VIVID IIDX」。トランス・ユーロビート・テクノ・ハウスを四本柱として華やかさを前面に打ち出している。クラブミュージックにとどまらず多様なジャンルの楽曲を収録していくという方針も更に加速させており、1st styleから開発の中心を担ってきたdj TAKA氏は6th styleを「ベストを尽くした作品」と語っている。

今回のテーマは、「艶~THE PRIMARY VIVID IIDX」です。

「原色的な鮮やかさ」と訳される今回のテーマですが、テーマも華やかなだけに各方面で活躍する一流アーティストを多数要請、エイベックスグループの全面的な協力も受けて、TRANCE、EUROBEAT、TECHNO、HOUSEの4ジャンルをフューチャーしてみました

IIDX6th公式サイト NEW SONGS INTRODUCTION(dj TAKA氏)
「NIGHT OF FIRE」とか「YESTERDAY」みたいな当時パラパラで話題だった曲も入ってた記憶

自分のアイデア中心でずっと続けていくには限界を感じてきた時期があったんですよ。6th styleを作ったときなんですが,これが自分の中で一つ極まったところだと。

IIDXとしてベストを尽くした作品だと感じたんです。

4Gamer.netインタビュー “最新作「beatmania IIDX 20 tricoro」のサウンドディレクター陣に聞く,IIDXシリーズの今昔”
やりたいことはやり切った感

インターフェイス刷新!IIDXの基礎部分が完成

 6th styleではシステム面も大幅に刷新されている。前作まではカーソルを合わせなければ楽曲の難易度を確認できなかったが、6thからは楽曲リストの横にレベルを表示するようになった。

 6th styleのシステム画面を担当したのは、今作から正式にスタッフ入りしたHES氏。氏が新たに作り出した選曲画面のUIは、IIDXの選曲画面としての基礎を完成させたといえるだろう。

IIDXチームへ正式なスタッフとして参加した今作はすべてが新鮮で楽しく開発できました。担当したシステム画面は青を基調とした統一感のあるデザインにしてみましたがどうでしょうか?

IIDX6th公式サイト From STAFFS(HES氏)

システム画面演出の方も、デザインHES、プログラムKANI、サウンドTAKAのコラボレーションにより、全体を通して浮遊感のある雰囲気作りを目指したので、何気なく気に入ってくれたら嬉しい。

新生IIDX team presents beatmania IIDX 6th style、今回もよろしくね。

IIDX6th公式サイト From STAFFS(dj TAKA氏)

↑5th styleの選曲画面。レベル表記が☆の数で表記されている。ちなみにsubstream~5thまでの選曲画面はGOLI氏が手掛けていた。

↑6th styleの選曲画面。レベル表記が数字になり、楽曲リストの曲名頭部に表示されるようになった。

↑現行バージョン(INFINITAS)の選曲画面。ジャンル名やアーティスト名の配置などに、6th style時代の面影が見て取れる。

LV12のことを「☆12」って表記するのは5th styleまでの名残りなんだなあ、と感じられ、
5thまでのGOLI製の選曲画面は武骨な感じで、6th以降のHES製の選曲画面はサイバーな感じがする

 更に、今作から各種オプションを選曲画面で変更することができるようになった(前作の5th styleではハイスピードに限り選曲画面で変更可能だった)のも大きな変更点である。

 オプション設定画面では、オプションに対応する鍵盤がグラフィカルに表示され、直感的に操作できるようになった。このオプション設定画面は機能の追加に対応しながら、IIDX 30 RESIDENTまで長きに亘り採用され続けることになる。

↑6th styleのオプション設定画面。グラフィカル・ユーザーインターフェイス(GUI)を採用し、各オプションの変更方法と設定状況が一目瞭然となった。

↑INFINITASのオプション設定画面。6th style以降、増え続ける機能に対応しながら22年間に亘り進化してきたが、IIDX 31 EPOLISにてオプション設定画面が刷新された。

 以上のように、HES氏がインターフェイスデザインに携わるようになった6th styleでは、各種プレイ画面が刷新され、現行IIDXのインターフェイスの基礎が作られたのである。

6th styleでは判定文字も刷新された(左:6th style 右:3rd style)。現行バージョンの判定文字とほぼ同様のフォントになっている。

6th styleのリザルト画面。楽曲ごとにDJ LEVELが表示されるようになったのも本作から。5th styleまでは1クレジットでのプレイを通しての合計スコアでDJ LEVELが表示されるようになっていた。

6thで導入された要素が現代へと繋がっているんだなぁ

統一感のあるシステムBGM

 6th styleはシステムBGMにも工夫が凝らされている。今作ではタイトル画面からエンディングまで一つのモチーフに沿ったBGMが流れるようになっている。

 IIDX 20 tricoro以降、デフォルトのシステムBGMは画面遷移に応じてシームレスに変化していく仕様になっているが、6th styleのシステムBGMはその原点といえるだろう。

 なお、6th styleのサウンドトラックには、ボーナストラックとしてシステムBGMを繋げて1つの楽曲にした「Tomorrow Perfume ~The Theme of 6th style~」が収録されており、次回作の7th styleでは、ほぼそのままの形で「Tomorrow Perfume」としてプレイアブル楽曲になっている(現行バージョンでもプレイ可能)。

6th styleは前回同様に素晴らしい楽曲が揃っていますが

タイトル>モードセレクト>曲セレクト>ネームエントリー>エンディングの統一感あるジングルも見逃せません。

画面と同時に聞いた時はKANIと2人で感動しました。

dj TAKA 最高です。

IIDX6th公式サイト From STAFFS(HES氏)

6th styleのシステムBGMはdj TAKA氏が手掛けている。前作までと比べて各BGMに統一感があることが分かる。

韓国で猛威を振るったHARDゲージが日本に襲来

 6th styleで新たに搭載されたオプション「HARD」グルーヴゲージが減少式になり、0%になると演奏中でも強制終了してしまう上級者向けオプションである。4th styleで導入されていた「EASY」はゲージ減少量が少なくなる易化オプションだったが、「HARD」は単にゲージの減少幅を大きくするわけではなく、ゲージの仕様とクリアの基準が大きく異なる(0%で強制終了、曲終了時に少しでもゲージが残って入ればクリア扱い)。

 実はこの「HARDゲージ」は、韓国版IIDX(beatstageII)から輸入された要素だったのである。

6th styleで新たに搭載されたオプション、「HARD」。

EASYが作られた時から冗談の中では存在していたこのオプション。実現しちゃいましたね~。みなさん(の一部)に愛好されているようで嬉しい限りです。

10個くらいのPOORでステージ失敗。ひどすぎですか?僕は気に入っています。

「ガン!」と音が鳴って画面が閉まる演出は、実はもともとは海外仕様だったものの流用です。僕は気に入っています。

IIDX6th公式サイト From STAFFS(KANI氏)

韓国版beatstageII 2nd styleではグルーヴゲージがHARDのみ(ノマゲは存在しない)という仕様上、閉店演出が存在する。韓国版2nd styleについては別の記事で詳しく取り上げている

この閉店演出ってCLUB VERSION2でも使われてたよね?そっちが先では?
CLUB VERSION2はsubstream~2nd styleの時期に稼働していたから、初出は韓国版ではなく国内版CLUB VERSION2でいいと思う
制作時期はほぼ同じだから、この閉店演出は韓国版用に作ったけど、CLUB VERSION2に流用してこちらが先にリリースされた…みたいな経緯なのかな?

 なお、この時代のHARDゲージにはいわゆる「30%補正」が存在しない(HARDゲージに30%補正が適用されるのはIIDXRED以降)。「30%補正」とは、ゲージが一定量を下回った場合(厳密には32%以下になると発動すると言われている)、ゲージ減少量が半減するという仕様である。

 もし、韓国版2nd style、国内版6th style~10th styleをプレイすることがあるならば、現代のHARDゲージよりも厳しい仕様になっていることを覚えておきたい。

THE PRIMARY VIVID第二幕!7th style

JEWEL SHOWER─6th style路線を継承した楽曲群

 2002年3月27日に稼働したIIDX 7th styleは、6th styleの正統後継バージョン「THE PRIMARY VIVID IIDX 第二幕」として「JEWEL SHOWER」というキャッチコピーを掲げた

次回作7th styleは、THE PRIMARY VIVID IIDX第二幕、6th styleの正統後継バージョンです。

おもちゃ箱から飛び出すガラス玉のような音楽のシャワーをお楽しみに!

IIDX6th公式サイト From STAFFS(dj TAKA氏)

 先に述べた通り、6th styleの段階でdj TAKA氏はサウンドディレクターとしてベストを尽くしたと感じていた。6th styleの路線こそがIIDXの方向性として完成されたものであるという観点から、7th styleでも大きく路線を変えなかったのだろう。収録曲の傾向は6th styleと似通っており、ユーザーからの評価も高かった

 7th styleでdj TAKA氏はIIDXの一つの集大成として長年温めていたアイデアを投入することを決意した。IIDXを極めたプレイヤーに対する挑戦状、IIDXerとしてのあらゆるスキルを要求する超絶技巧曲「A」である。

この曲の構想は実は3rd styleくらいの頃からあった

約半分のBPMで始まる前半は、複雑な同時押しを見極め正確に目押しする技術を、高速ドラムンベースのリズムに抜けのない16分のピアノフレーズは、両手でバラ落ち譜面を叩く技術を、階段プラススクラッチ部分は、片手で正確に階段譜面を演奏する技術を・・・・・・と、IIDX攻略に要求される全ての技術を必要とする曲を作ろうと。

だが当時としては要求するレベルが一般的なユーザーから見てあまりにもハードルが高く、プレイヤー達の技術レベルの上昇を待ちつつ、バージョンを重ねる度にゲームの難易度を少しづつ上げていった訳だが、7thのロケテストで沢山の人が人間の限界に近い譜面を軽々とこなしていくのを見たときに、遂にこの曲をリリースする時がきたと確信した

そんな「A」に選んだアーティスト名義はD.J.Amuro。込められた思いは、プレイする一人一人が感じてくれればそれでいい。

超上級者以外お断りの難易度で、大多数の人達には申し訳ないが、この曲のクリアを超一流の証として位置づけてもらえれば嬉しい限りである

IIDX7th公式サイト NEW SONGS「A」

7th styleで満を持して投入された超上級者向け楽曲「A」。クラブミュージックではなくゲーム性を重視した楽曲であり、架空のジャンル「RENAISSANCE」を冠した。

あっ、☆12最下位候補の「A」じゃん!
後にこのジャンルはYoshitaka氏の手により「HARD RENAISSANCE」に進化し、音ゲーコアのジャンルとして確立することになるけど、それはまだ遠い先の話…

プレイヤーのクリア力を可視化する「段位認定」

 7th styleでは、新たに段位認定モードが搭載された。近年の音楽ゲームでは多くの機種に採用されている段位認定モードだが、初めて搭載されたのはIIDX 7th styleだった。

段位認定モードは「クリアラーが自慢できる場があっても良いのではないか?」ということから生まれたのですが、どちらかといえば練習用のモードとなりました。特にダブルプレーを始めて見たいという人には是非お勧めします。

IIDX7th公式サイト FROM STAFFS(KAGE氏)
クリアランプが存在しない時代だから、曲をクリアした証としての段位認定って位置付けだったのか
スコアの記録はEXPERTモード、クリアの記録は段位認定ってことかな?

 段位認定モードをクリアした場合、EXPERTモードと同様にパスワードが表示され、公式サイトに入力することでランキングに登録することができた。稼働当初は「八段」が最高段位だったが、後日、隠し段位として「九段」「十段」が解禁された。最高段位「十段」の最後には「A(ANOTHER)」が鎮座しており、ラスボス格という位置づけだったことが分かる。

新作稼働直後は八段までしか選べないのは、この仕様が現代まで続いているから

SP十段の曲目は「Holic(A)」→「Colors(A)」→「V(A)」→「A(A)」。Aよりも二曲目のColorsの方が難しいのではないかと思われる(※筆者の感想です)。

よわよわ十段…
ちなみにSP七段の四曲目は、この時からずっと「THE SAFARI」だよ

 なお、段位認定のグルーヴゲージには30%補正が適用されている。先に述べた通り、30%補正がHARDゲージに適用されるのはIIDXREDからであり、元々は段位ゲージ専用の仕様だった

Q: 段位認定のグルーヴゲージは30%ぐらいから密度が高くなっているような気がするんですがどうなんでしょうか?

A: 徳俵に足を掛けて土俵際一杯の粘り腰って感じを表現しています。その通りです。(KANI)

IIDX8th公式サイト Q&A(KANI氏)

演出付きの隠し曲!ワンモアステージ

 ONE MORE EXTRA STAGEが初めて導入されたのも7th styleである。3曲目で一定条件を満たすと、特殊なリザルト画像がと共にEXTRA STAGEに隠し曲「MAX300」が出現。「MAX300(H)」をHARDかつDJレベルAAAでクリアすると、特殊リザルトが表示されて強制的に「革命(H)」をプレイすることになる

MAX300も革命もHYPER譜面なの?よわよわワンモア?
MAX300のANOTHERが追加されたのはIIDX 30 RESIDENTだし、革命はHYPERとANOTHERでそんなに難易度変わらないから…

 これまでもスコアに応じて隠し曲が選曲可能になる要素は存在していたが、MAX300出現時は選曲画面と選曲BGMが特殊なものに変化したり、条件を満たした際に特殊なリザルト背景になる等の演出は話題になり、ボス曲としての存在感を際立たせるものとなった

「革命」出現時のリザルト。「ONE MORE STAGE」と表記されている。「革命」はNAOKI氏から持ち掛けられたコラボ楽曲で、7th styleと同時に稼働したDDR MAX2でも隠し曲として収録されていた。

「革命を一緒にやらないか?」ってやつ
この時は「ONE MORE STAGE」って名前だったのかー
8th styleのxenonから「ONE MORE EXTRA STAGE」という名称になった模様

 なお、MAX300はBPM12~300。革命のBPMは83~148。本作ではタイトル画面と選曲画面でしかハイスピードの変更ができないため、同じハイスピード設定でMAX300と革命を連奏しなければならない

 今作ではフローティングハイスピードは存在しないため、ハイスピ1.0でMAX300(緑数字290)→革命(緑数字588)、もしくはハイスピ2.0でMAX300(緑数字232)→革命(緑数字470)にてプレイすることになる。このようなBPMの落差は意図的に設けられたもののようで、ディレクターのKAGE氏は「ハイスピード殺し」と表現している

蔭山氏:時には実験なこともするんですよ。

蔭山氏:例えば「MAX300」が入ったハイスピード殺しのエキスパートコースを汲んでみたり(笑)。こういうのは批判も激しいんですけど、開発サイドとしてプレイヤーがどのようにアプローチするか、興味があるんです

アルカディア 2002年10月号
7th styleはハイスピ3.0もあるんじゃないの?
MAX300を緑数字193でAAA出せるならどうぞ
やっぱり見えぬ

 6th styleでサウンド面は完成形に至ったということで、7th styleでは、プレイヤーがスキル向上を実感できる要素を充実させている。「段位認定」でプレイヤーがスキルの向上を段階的に実感することができ、「ワンモアステージ」では、上級者に対して特別な演出・楽曲という報酬を用意したのである。

 現行のIIDX公式サイトでは、このゲームの魅力を「過去の自分より上手くなる。beatmania IIDXの本当の面白さは、ここから始まります。」と表現しているが、7th styleはその原点に着目したバージョンともいえるだろう。

幻のロケテポスター「白セム」とは?

 IIDXではロケテスト会場にメインビジュアルが描かれたポスターが掲示されているのが通例だが、このロケテポスターは制作中のものであるためか、製品版のポスターと異なるデザインになっていることが多い。

 7th styleのロケテポスターでは、今作初登場のキャラクター「聖奈(セム)」が描かれていたが、製品版のポスターでは削除されている。以後の作品に登場するセムは黒髪だが、このセムはなぜか銀髪になっており一部では「白セム」と呼ばれている

 古い時代のもので画像などはほとんど残っておらず、かつてはアミュージアム茶屋町にポスターが掲示されていたが、閉店してしまったためポスターの所在は不明である

7th styleロケテ版ポスターの貴重な画像。セムが指で「7」を示している。2023年に閉店してしまったことから、ポスターも散逸してしまったと思われる。廃棄されていないことを祈るばかりである。

ゲーセンの閉店で貴重な史料が失われていく…

五鍵の終焉

五鍵の原点はアンダーグラウンド!6thMIX~7thMIX

 IIDXが成熟の域に到達する一方で、五鍵ビートマニアは6th MIX・7thMIXが稼働。よりアンダーグラウンドなサウンドを追求していくことになる

 新たにプロデューサーに就任したのは大田良彦氏。あのDDRを生み出した人物である(DDR制作時のエピソードはこちらの記事を参照)。

おおたPふたたび

 大田氏とビートマニアとの出会いは1997年秋のAMショー会場だった。アーケードゲーム機器のプロデューサーでありながら、開発されていたことも知らなかった未知のゲーム機を見て入社以来の衝撃と嫉妬心を抱いたという。

大田氏:最初の『beatmania』は、僕は全然関わってないんですよ。そもそも、作っているという事すら知らなかった。97年のAMショーで最初にプレイして「何これ? めっちゃおもろいやん」とビックリしてました(笑)。

大田氏:その時の衝撃といったらなかったですよ。会社に入って、一番ショックを受けたのは『beatmania』との出会いですね。心の底から「面白い」と思ったのと同時に、メチャクチャ嫉妬しましたね。「くやしい~!」って(笑)。

アルカディア 2002年7月号
ビートマニアが初披露されて、小島秀夫・泉陸奥彦・おおたPに衝撃を与えたという伝説のAMショー'97…
AMショー'97でビートマニアが発表されたときの様子はこっちの記事で詳しく紹介してます
まさかプライズ機を開発してた部署でこんな体感ゲームが作られていたとは、おおたPも知らなかったんだろうね

 おおたPが五鍵ビートマニアのプロデューサーに就任して目指したのは、「ビートマニアを目にして最初に感じた衝撃の再現」だった。これまでに聴いたことのないような新しい音を届ける…IIDXがクラブシーンの流行を追いかけていくのに対して、五鍵ビートマニアがよりディープな方向に進んでいくのは必然だったのである。

大田氏:本格的に僕の色が出ているのは『beatmania 7thMIX』からだと思います。『7thMIX』は、僕なりに『beatmania』を掘り下げてみて「最初に感じた衝撃を、プレイヤーにも、もう一度感じてもらいたい」という思いが入ってます。今まで聞いたことのない音や空気を感じてもらいたかったというか……。

大田氏:僕は『beatmania』のコンセプトは「迎合する」んじゃなくて「引っ張っていく」だと思っているんですよ。常に新しい音を用意して、プレイヤーに向けて、これまでに無かった新しい感覚を植え付けていければ、と。

アルカディア 2002年7月号

大田氏は6thMIXからプロデューサーに就任していたが、自身のカラーを色濃く反映させたのは7thMIX以降だったという。

 5thMIXやCORE REMIX以前の楽曲は収録せず、6thMIXは英国クラブシーン、7thMIXは日本のクラブシーン(特にヒップホップ)に焦点を当てて楽曲をチョイス。五鍵ビートマニアの原点である「ストリート系」「アンダーグラウンド感」を強く意識した作品となった。

7thMIXから新たに導入された「一回転スクラッチ」。長いスクラッチノーツの範囲内でターンテーブルを回し続け、終点での回転量が360度(一回転)に近いほど高評価となる(IIDXのBSSとは別物)。

 ビートマニア1stMIXの紹介記事によれば、元々ビートマニア制作陣はヒップホップというよりもテクノサウンド全般にフォーカスしていたようにも見受けられるが、ターンテーブルという操作形態から一般に連想されるのはヒップホップであり、大田氏がビートマニアに対していだいたイメージもヒップホップだったのだろう。

 IIDXと同様にcutting edgeやavexなどの版権楽曲を取り入れているが、IIDXはトランス・ユーロビート等の楽曲を多く採用していくのに対し、五鍵ビートマニアではヒップホップ版権曲を多数収録している

 この7thMIXは、かつてのbeatmaniaIII同様に先行販売分しか市場に出回っていない。つまり正式発売に至っていない作品ということになる。現存する基板はごく僅かで、貴重なバージョンになっている

THE FINAL─五鍵の遺伝子は生き続ける

 2002年7月26日、五鍵ビートマニアの新作が稼働した。「beatmania THE FINAL」─2002年5月16日に新宿プレイランドカーニバル(2020年に閉店)のロケテストで披露されたタイトルを見て衝撃を受けたプレイヤーは多かった。

「ビートマニアが終わる」という衝撃

 はっきりと示された「ビートマニア最終章突入!!」の言葉。五鍵最終作はどのような思いでリリースされたのか?アルカディアのインタビュー記事から読み解いていきたい。

アルカディア 2002年7月号に掲載されたインタビュー記事。THE FINALについて「新たなモノを創るために、古い殻は壊す」としている。その真意とは…

 7thMIXの制作を終えたプロデューサーの大田氏は、次回作について「completeMIX3」のようなベスト版を思い描いていた。売上・ユーザーの評価など様々な要素を踏まえた結果、次にリリースする総集編を「ファイナル」と言い切る必要があったと語っている。

大田氏:『7thMIX』が終わって、次回出すとすればそれは『beatmania』のベスト版的な位置付けの商品になるだろうな、と漫然と考えていました。

大田氏:正直、ライトユーザーまで巻き込んで盛り上がった『beatmania』が、いろんな意味で難しくなってきているのも感じていたし、何かしなければならない、という思いは常にあったんです。

大田氏:さまざまな人たちから意見を聞いたり、BBSなどから情報を集めたり、考えに考えまくりました。その結果が今回の『ビートマニア ザ ファイナル』。これ以上無いぐらいの「決定版」にするために、ファイナルと言い切ってしまう必要があったんです。

アルカディア 2002年7月号
ビートマニアでライトユーザーを取り込める時代は終わった…
1stMIXの時点で二世代前の型落ち基板をずっと使い続けてきたし、そういう意味でも限界を迎えてたのかな…

 先ほど7thMIXが先行出荷分しか出回らなかったと述べたが、五鍵ビートマニアは6thMIX以降のインカム推移が低迷していた。業界誌アミューズメントジャーナルのインカムランキング(店舗貢献度)を見てみよう。

インカムランキング推移をグラフ化したもの。グラフの無い月はランキング圏外(21位以下)であることを意味する。五鍵初代(7thMIX)と、beatmaniaIII(6th以降の全バージョン)は、ランキングに顔を出すことは無かった。

7thMIXとbmIIIが全く出てこないのは先行出荷分しか世に出てないからだろうね…
新作が出たのに、最寄りのゲーセンにはcomp2しか置いてない…みたいな声もあったとか
6th~7thの流れと比較すると、THE FINALは大健闘してるってことが分かる

 これは推測の範囲を出ないが、大田氏の「これ以上無いぐらいの「決定版」にするために、ファイナルと言い切ってしまう必要があった」という発言の背景には、「FINALだからという理由付けが無いと予算が下りない」という事情もあったのではないだろうか。

 このインタビューで「コンプリートではなくファイナルとした理由」について尋ねられた大田氏は以下のようにも語っている。

大田氏:タイトルを見て決意を分かってほしい、というのがありましたし、やるんだったら言い切ってしまえ!逃げ道を作る必要は無い!と思ったからですね。

アルカディア 2002年7月号

 元々エレメカのミニゲーム的な発想で生まれた五鍵ビートマニアは、シリーズ化する前提では無かったため、非常に性能の低い基板を使い続けていた。収録曲数を増やしたり、楽曲の尺を伸ばしたり、譜面の物量を増やすことにも常に制約がつきまとっており、THE FINALでは容量を確保するために、画面中央のアニメーションを大幅に縮小するなど涙ぐましい努力をしている。


上が7thMIX、下がTHE FINALのプレイ画面。アニメーションの表示領域が半分以下に縮小されている。アニメーションのコマ数も大幅に削減されており、あらゆる手段を駆使して収録数を増やすための容量を確保している様子が窺える。

そもそもこれまで60曲くらいしか収録してなかったのに、THE FINALだと189曲も詰め込んでるからね
音声データの圧縮率を高くしてるから音質が悪いとか、解凍するのでなかなか曲が始まらないとか…
限界を遥かに超えた曲数を収録した苦労の跡だと思えば、それはそれで趣深いかも?

 この貧弱な基板では、今後新たなアイデアを加えることが困難であることから、シリーズを終えると明言し、新たな展開を行った方が良いとの判断だったのだろう。

引導を渡したということかー…

 過去最大の収録曲(beatmaniaIII THE FINALは大容量を活かしてさらに多くの楽曲を収録)で、煌びやかなフィナーレを飾った五鍵ビートマニア。最期はアンダーグラウンド感を払拭し、大田氏いわく「びっくり箱としてこれまでの良いところを全てぶち込んだ」という。

 このTHE FINALは正式販売にこぎ着けておりインカム面でも健闘。現在でも(五鍵ビートマニアの中では)稼働数が多いバージョンである。

 アルカディアのインタビューで大田氏は次のように締めくくっている。

大田氏:ここで『beatmania』は終わりを迎えます。今まで『beatmania』を本当に愛してくれたプレーヤーに心からお礼を言いたい気持ちでいっぱいです。そして、これを次のムーブメントのための出発点にしたいと思っています。期待していて下さい。

アルカディア 2002年7月号
一体どうなってしまうのかー?

五鍵とIIDXの融合!8th style

 2002年9月27日、IIDX 8th styleが稼働した。キャッチコピーは「Break the Future!」「ハイテンション」で、オレンジを基調としたインターフェイスが目を引いた。

 本作では、五鍵ビートマニアで活躍したコンポーザー達が集結。SLAKE氏やRAM氏などがIIDXに楽曲を書き下ろした最初のバージョンである。

今後はbeatamania、beatmania IIDXが一つになっていくことになりますが、8th styleでその足固めができたんじゃないかと思っています。

8th style公式サイト FROM STAFF(TAKA)

アルカディア 2002年11月号より。稼働直後の8th styleが紹介されている。

五鍵の遺伝子は8th styleに受け継がれたのかー

 五鍵とIIDXの融合─beatmania・IIDX・bmIIIが一つになり、IIDXはキャッチーな楽曲とアンダーグラウンド楽曲を兼ね備えた完全体へと進化したのである。

KAGE氏:今回は『beatmania』シリーズのコンポーザーの参加による『beatmania』との融合ということでしょうか。単に名義だけということでなく、もっとしっかり個性を出している点が今までにない特徴ですね。

KAGE氏:これによってIIDXシリーズの持つTRANCE、EUROといった一般受けするイメージに、『beatmania』シリーズの持つコアな部分が足されることになり、バラエティが格段に広がっています

アルカディア 2002年10月号
光と闇が両方そなわり最強に見える

インターネットランキングに新要素登場

 8th style稼働から半月が経過した2002年10月16日、新たな趣向のインターネットランキング「TRIPLE CHALLENGE」が開催された。これまでのEXPERTモードのスコアを競う「全日本選手権(TOP RANKER)」に加え、ハイスコアを塗り替えた回数を競う「撃墜王決定戦(ACE SCORER)」、プレイした筐体数を競う「行脚王(HOT TRAVELER)」が新たに登場。スコアを競うだけではない新たな楽しみ方を提示している。

8th style公式サイトより「撃墜王決定戦」の告知。IIDXのライバル挑戦状における「撃墜」の語源である。

8th style公式サイトより「行脚王決定戦」の告知。プレイした筐体数を競うランキング(現行の「筐体行脚王」に相当する)で、EXPERTモードのパスワードを登録することでプレイした筐体数を判別している。

 普段プレイしない店舗を回ることを「行脚する」と言うが、その語源は本作の「行脚王決定戦」である。なお、行脚王ランキングはIIDX 20 tricoroで復活し、現行バージョンまで毎作開催されている。

漢字検定2級レベルの「行脚」、音ゲーマーのほとんどが読めてしまう…

 行脚王はスコアが一切関係しないという斬新な要素だったが、現代の「位置ゲー」にも通ずる楽しみ方をこの時代に提示していたのは驚きである。現在でも行脚を楽しむプレイヤーも一定数存在することから、IIDXの新たな楽しみ方を開拓できたと言って差し支えないだろう

「行脚王」

スコア以外で競うものがあってもいいじゃないか、別のゲームセンターで遊ぶのも新鮮ではないか等々が発想の元でした。お金に無理せず気楽に楽しんで頂けたらと思います。 更にこれがきっかけで人の交流が生まれたらいいなあと密かに願っております

IIDX8th公式サイト FROM STAFFS(KAGE氏)

全国各地を飛び回る為の資金も時間も必要かもしれない。しかし、全国のどのゲームセンターに8th styleが設置されているのか調べ出す、情報収集能力も重要。全国各地に仲間がいるプレイヤーこそ、有力候補なのかもしれない・・・

IIDX8th公式サイト FROM STAFFS(VJ GYO氏)
元々「行脚」は仏教用語だし、各地の寺を巡るという意味ではナイスネーミング
まあ、弐寺は神社だけどね…

 なお、行脚王のランカーになるには、スコアでトップランカーになるのとは別の意味で過酷なプレイが要求される。ファミ通.comの記事「『ビートマニア』でDJの腕ではなくプレイした店舗数を競う猛者たちがいる。“行脚王”こそ、もっとも過酷で楽しいeスポーツ説」では、行脚王ランカーのインタビューが掲載されているので興味がある方は一読されたい。

ファミ通.comの記事で、コナミが「行脚王について新しい企画も検討しております」って発言してるね
御朱印帳でも作るのかな?

不正か合法か?プレイスタイルを巡る争い

 以上のように、2001年から2002年にかけてのIIDXはあらゆる面で現在に通じる基礎が作られた時期であった。運営面でも、ネットでの意見・アイデアを吟味して反映させていくスピード感を持っており、当時普及してきたインターネットを上手く制作に活用している印象を受ける

 そんな中、ネットで物議を醸していたある事案があった。「紙やタオルで画面を隠してスコアを伸ばす手法が横行している」というものである。ハイスピードのようなゲーム内オプションではなく、紙という道具を用いており、これが不正行為になるのではないか?という問題である。

レーンカバーみたいなもんでしょ?

 これは物理的にレーンカバーを作り出す手法である。特に7th style・8th styleの特殊EXTRA曲とワンモア曲はBPMの落差が大きかったことから、この方法が非常に有効であり、タオルなどで視認性を高めてワンモアを出現させるという攻略が広まっていったのである。

 道具を使用してスコアを伸ばすのは不正行為か否か?この「タオル問題」について8th styleの公式サイトでKAGE氏が公式見解を述べている

Q: 紙を使ってIRに登録することを禁止にできないものでしょうか?

A: 禁止しません。制作チームでは紙の効果は理解できておりませんが実際に紙を使えばスコアが上がったという話は聞きます
しかし紙を使用することが不正だとは考えていません。プレイスタイルは個人の自由あり、特に制約を加えたくないというのが本音です。
ただSP,DPにて複数人プレーによる不正スコアは登録しないで下さい。

IIDX8th公式サイト Q&A(KAGE氏)
効果はよく分かんないが使ってヨシ!

 画面を隠すとスコアが伸びる。現代ではその科学的根拠は解明されているが、当時のスタッフは半信半疑だったのだろう。紙やタオルを使用することに抵抗のあるプレイヤーは、帽子のつばや、自分のまぶたを使って擬似的にSUD+と同じ状況を作り出す者もいた。

 この公式発言により、紙・タオルに関する論争は沈静化していく。ネットが普及し、プレイヤー同士で意見の食い違いが起きる中で、運営サイドがハッキリと方針を示すことは重要であった。

2005年に稼働したIIDX12 HAPPY SKYにてSUD+が実装されたことにより、タオルはシステムに組み込まれることとなった。レーンカバー(タオル)はその名残である。

レーンカバーが迫害されていた時代があったとは…
公式がネットを上手く活用できているようで何より

 詳しくはこちらをご覧下さい。