FURIMUKI style
2003~2004

IIDX、オンラインゲームになる

2023年11月26日

 8th styleで五鍵ビートマニアとの融合を果たし、完成形を見出したIIDX。しかし、インターネットの発展がIIDXの更なる進化を促していくことになる

 2003年、初のインターネットサービス対応IIDXとして9th styleが誕生プレイデータの記録が可能になり遊びの幅が大きく広がった一方で、新たな環境を構築したことによる不具合も多発。9th style~10th styleにかけて、変革と苦しみの時代が訪れることになる。

 様々な逸話に事欠かない9th style~10th style時代の出来事を見ていこう。

e-AMUSEMENT誕生

e-AMUSEMENTの原型はDDR1stMIX(IR Ver.)だった?

 皆さんは、当サイトで以前取り上げた「早すぎたネット対応、次世代ビーマニと未来への挑戦」を覚えているだろうか?

 1999年~2000年にかけて、コナミは家庭用ゲーム機をインターネットに接続するサービスを模索していたが、残念ながら商品化には至らなかったという話である。

任天堂やFM東京と提携して色々やろうとしてた頃の話だね
ネットジャムとか、楽曲配信対応ビーマニポケットの話かー

 ゲームのネット対応サービスが実現しなかったのは、当時の家庭用ゲーム機でインターネットに接続するハードルの高さや、通信料金の負担が大きいという理由があった。

 だがコナミは諦めていなかった。家庭用ゲーム機のネット対応が頓挫していた裏で、アーケードゲームのネット対応サービスの構想が練られていたのである。

 サービス立ち上げの仕掛人は、かつてDDRのプロデューサーであった高橋一也氏。高橋氏は、かつてビーマニシリーズ全般のインターネットランキングシステムを立ち上げた人物。その経験を買われて、ネット対応サービスのプロデュースを行うこととなったのである。

高橋氏が最初に携わったインターネットランキングは、公式サイトでパスワードを入力する方式のやつだね
DDR1stでインターネットランキングを開発した人が、e-AMUSEMENTを作り上げたのか…

アルカディア2002年8月号より。当時の高橋氏の肩書は「AC事業本部EAST制作部ネットワークプロダクション プロデューサー」だが、後に「株式会社コナミオンライン取締役 副社長」に就任している。

 氏はオンラインゲームの面白さがいずれ日本でも理解される時が来るであろうこと、その先駆けはアーケードゲームになるだろうと語っている。

─では、e-AMUSEMENTの構想はそのころからあったんですか?

高橋氏:4~5年前なので、2000年ごろからですね。当時僕は『ウルティマオンライン』のヘビーユーザーだったんです。まだ国内でオンラインゲームは浸透していませんでしたが、将来この面白さが理解される時代が来るだろうと思いました。だったら、当然開発もやりたい。そう考えたときに、一番認知度が高まる可能性があるのが業務用でした

アルカディア 2005年1月号

 高橋氏らが開発した業務用インターネットサービスは「e-AMUSEMENT」と名付けられ、2002年7月にサービス開始となった。名前の由来はコナミのゲームセンター店舗向け専用回線「e-AMUSEMENT」だった。

ゲーセンオペレーター向け通信サービスの名前をそのまま使ったのかー
ちなみに、2000年にコナミの筐体レンタルサービスとして「e-Amusement」という名前が使われてるから、起源はこっちなんだよね

ポップンキャラクタービジュアルガイドより。Mickey TUNESは期間限定で稼働していた作品で、コナミが店舗にレンタルする形式を採っていたのだが、このレンタルシステムの名前が「e-Amusement」だった。

e-Amusement→e-AMUSEMENT→e-amusement
かつて存在したレンタルシステムの名称をオペレーター向け販促物提供サービス回線の名前にして、それがe-AMUSEMENTになったわけかー
このMickey TUNES、筐体内にPHSを内蔵してインカムを管理してたらしいので、今のe-amusementの機能を取り入れていたともいえる
歴史のある名前なんだなあ、と感じられ、

e-AMUSEMENTを空気のような存在にしたい

 この時期は通信技術の進歩が目覚ましく、セガのVF.NET(現在のALL.Net)など、コナミ以外のメーカーも続々とアーケードゲームのネット対応に乗り出している

 従来のアーケードゲームは1クレジットでゲームが完結し、プレイ結果を次回のプレイに反映させることはできないゲームがほとんどであった(「イシターの復活」「ウォーザード」のようなパスワード方式を備えたものも存在していたが少数派であった)。

「ドルアーガの塔」のノーヒント謎解きとかも、擬似的にゲームの継続性を生み出すための工夫なんだろうね

当時のアーケードゲームでは、入力したプレイネームとスコアが筐体のデモ画面に表示されるのが唯一の記録手段で、全国ランキングはゲーム雑誌に投稿されたもので確認するというスタイルが長く続いていた(画像はIIDX 1st styleのネームエントリー)。

 ビーマニシリーズでは、DDR筐体でPS1のメモリーカード使用する遊びや、beatmaniaIIIでフロッピーディスクという外部記憶媒体を用いてプレイ内容の記録ができるといった仕掛けを採用するなど、アーケードでのゲームの連続性を模索する動きを積極的に行っていた。

 e-AMUSEMENTのようなシステムが導入されることで、アーケードゲームでもプレイ結果の記録をメーカーのサーバー側で簡単に行うことが出来るようになり、複数回のプレイを前提とした遊びを作りやすくなったのである。

─「e-AMUSEMENT」の狙いは何なのでしょうか?

高橋氏:オンラインにして、遊びの選択肢を増やすことです。メールやコンテンツの配信、インターネットランキング、データ保存によるゲームの継続性など、可能性が広がりますからね。

高橋氏:オンライン化で1プレイの付加価値が高まり、メーカーにもメリットがあるので、新しいルール「e-AMUSEMENT」を立ち上げました。便利なものは普及しなくてはおかしいと思いますよ(笑)。

高橋氏:将来的にはアーケードでもオンライン化が当たり前な、「e-AMUSEMENT」を空気のように自然なものにしたいですね。

アルカディア 2002年8月号
息を吸うようにe-PASSをかざす時代が来るから頑張って欲しい…

アルカディア2002年8月号より。e-AMUSEMENT対応ゲーム第一弾は麻雀格闘倶楽部(全国オンライン対戦Ver.)だったが、ほぼ同時期に「出撃!戦国革命」というアクションゲームも稼働している。当時はゲームごとにエントリーカード(磁気カード)を購入する必要があった。

開発側にも大きなメリット

 一方、e-AMUSEMENTの導入は開発側にも大きな変化をもたらした。プレイデータが記録されることで、どの楽曲(譜面)がどの程度プレイされているかを正確に把握できるようになったのである。これによって、開発側の方針とユーザーのニーズのズレを解消することができたのである。

 後に、dj TAKA氏はこれを「劇的な変化」「(8th以前は)よくあれでプレイしてくれていたと思う」と語っている。

dj TAKA氏:これは個人的な印象ですけど,昔のbeatmaniaって,いわゆるゲーマーとは違う層の人達を凄く意識してたと思うんですよ。それはもちろん,まったく新しい層にプレイしてほしいという想いからなんですが,もう一方で,ゲーマーでない人から見てもカッコいいものを作りたいというプライドが,自分達の中のあったように思います。そしてそれが時に,プレイヤーの求めるものとズレていた時期がありました

dj TAKA氏:でもシリーズを重ねるうちに,そういうズレはなくなっていきました。今はもう,お客さんが求めるものをドンピシャで提供できているというイメージがあります。

4Gamer.net 「最新作「beatmania IIDX 20 tricoro」のサウンドディレクター陣に聞く,IIDXシリーズの今昔。」
IIDX 20 tricoroの時のインタビューか

dj TAKA氏:劇的に変わったのは,9th Style以降ですね。e-AMUSEMENTのシステムが整備されて,プレイ状況が正確に把握できるようになったんです。それまでも自分の足でお店に行って確認したり,ネットの意見を見て回ったりということはしていましたが,やっぱりネットの意見というのは,極端なものが多いんですよ。

4Gamer.net 「最新作「beatmania IIDX 20 tricoro」のサウンドディレクター陣に聞く,IIDXシリーズの今昔。」
「やっぱIIDXは×××が至高(プレイ回数0)」ってやつ

dj TAKA氏:今考えると,よくあれでプレイしてくれていたと思うほど,劇的な変化でした。常にプレイヤーと一期一会といいますか,アーケード筐体側からみると,誰がプレイしているのかまったく分からなかったわけじゃないですか。

4Gamer.net 「最新作「beatmania IIDX 20 tricoro」のサウンドディレクター陣に聞く,IIDXシリーズの今昔。」
ビッグデータとか流行る前から、しっかり活用してたんだなぁ
五鍵初期の頃は、実際にプレイヤーから話を聞いたりして調整していたけど、客層が増えてきて統計データの方が信頼度が高くなってきたんだろうね

9th style ネット対応の光と闇

限界を迎えていたIIDX

 8th styleで五鍵コンポーザーも合流し全盛期を迎えていたIIDXだが、その裏ではハード性能の限界が近づいていた

 8th styleまでのIIDXはムービーをDVDプレーヤー(1st~5thはVideoCD)で流し、その他のゲーム画面やレイヤーアニメを基板(TWINKLE基板)で出力、2つを合成してモニターに表示するという手法を採っていたのだが、経年劣化でDVDが読み込めずムービーが表示できなくなってしまう筐体が増えていた

DVDドライブが故障し、ディスクを読み込めなくなってしまった筐体。ムービーが表示されずVictorのロゴが映っている。なお、レイヤーアニメは基板で生成されるためVictorロゴの上に表示される。

TWINKLE基板はPS1の拡張基板なので、性能はお察し下さい
まさか8thまで続くなんて考えてなかったんだろうし、何年間も稼働する前提で作られてなかったのかも?

 また、容量も限界に近づいていたようで、初期バージョンの楽曲は次々と削除されていき、旧曲の専用ムービーの多くは汎用ムービーに差し替えられてしまっていた。IIDXで初めて制作されたCGムービーであるGRADIUSIC CYBERも汎用ムービーになってしまっているのである。

 IIDXが人気を博し、4年間も稼働することになったのは喜ばしいことだが、筐体の設計段階ではここまで長期間稼働しボリュームが増大することを想定していなかったのだろう。

グラサイまで汎用にされちゃったのかー。GAMBOLはどうなってたのかな?
GAMBOLは2ndで汎用ムービーに差し替えられて、3rdで削除されてるでしょ!
とっくの昔に削除されてた!

(※注:音声が流れます)8th styleのGRADIUSIC CYBERと2nd styleのGAMBOL。初代IIDXの代表的なムービーさえも汎用ムービーになってしまっており、DVD(VideoCD)の容量が逼迫していたことが見て取れる。

 かつて五鍵が性能の限界に苦しんでいたように、IIDXも基板性能やDVDドライブの限界が訪れており、ハード面を大幅にパワーアップする必要性に迫られていたのである。こうした背景から、IIDXは9th styleで基板を変更することを決断したのである。

HIGH SPEC PCBが導入された9th style

 9th styleでは新たにBEMANI PC(第一世代)を搭載(以下、PC基板をPCBと略して表記する)、Windowsベースの基板で性能が大幅に向上。併せて大容量HDDを搭載したことにより削除曲の復活・旧曲専用ムービーの復活など様々な面でパワーアップすることができた。

9th~DistorteDまで使われていたBEMANI PC(第一世代)のスペックが記録されているWiki。DVDでは8.5GB(片面二層)までしか記録できなかったが、プログラムとムービーを60GBのHDDに丸ごと保存できるようになった。

DVDの映像と基板出力の画像を合成するとかいうアクロバティックなことをしなくてもよくなった。技術の進歩は素晴らしい!
60GBが大容量の時代か。CPUが2.4GHz…コアは何個なのかな?
もちろん1コア

8th style公式サイトでは2002年12月25日~2003年1月29日に「楽曲復活希望アンケート」が実施された。6,000人以上の応募があったとのことで、28曲が復活した。

GAMBOLもGENOM SCREAMSも復活したよ
ゲノムも削除曲だったのかー…

9th styleではGRADIUSIC CYBERの専用ムービーが復活。大容量HDDを活かして数々の楽曲や専用ムービーが復活を遂げた。

ネット対応で遊びの幅が広がる

 e-AMUSEMENTに対応した9th styleでは、エントリーカード(磁気カード)を購入することでプレイデータを記録することができるようになった。これにより、プレイするだけで楽曲単体のベストスコアやクリア状況が自動で保存され、公式サイトで閲覧できるようになった。

WEEKLY RANKINGも9thから実装されたよ。記念すべき第一週目は「ECHOES」!
最初からシブい曲だな!

 e-AMUSEMENTサービスの導入により、プレイ回数を重ねることにより楽曲が解禁されるという要素も実装できるようになった(解禁順はカードの絵柄によって異なるが最終的にはどのカードでもすべての楽曲が解禁可能)。

アルカディア2003年7月号の記事ではエントリーカードの一部が掲載されている。カードの絵柄は10種類(substreamを除く1st~8th及び9th×2種類)。テレフォンカードのような薄い磁気カードになっている。当時は作品ごとに異なるエントリーカードが必要だったため、これらのカードは9thでしか使用できない。

9th styleの選曲画面。プレイデータが記録できるようになったことからレベル表記の左にクリアランプが実装された。

遂に選曲画面が現行バージョンとほぼ同じになった!
ちなみにフォルダボイスはIIDX REDからなので、10thまでは無言でフォルダが開くよ

「beatmaniaIIDX 9th style」が完成しました!

今回からe-AMUSEMENT対応です。IIDX ONLINE!

ということでシステム画面の方もネットワークというかOSっぽくというか、そんな感じにしてみました。いかがでしょうか。

9th style公式サイトFROM STAFF(HES氏)

 本作から携帯サイトがオープン。PCを使わずとも携帯電話でいつでもスコアや段位などのデータを確認できるようになった。なお、全ての機能を利用するには月額300円のコナミネットDXに加入する必要があった。

アルカディア2003年10月号で紹介されている携帯サイトの記事。当時の携帯電話(フィーチャーフォン)は、キャリアによって異なるWEBサービスが展開されており、この記事の時点ではi-mode(ドコモ)でしか利用できず、順次EZweb(au)とJ-SKY(J-PHONE※現在のソフトバンク)に対応予定となっていた。

携帯電話の数字ボタンで移動していく携帯サイト…
携帯サイトって何?
当時はPC用に作られたサイトを携帯電話で見ることはできなかったから、こういう携帯専用サイトを作る必要があったわけ
設置店舗検索も有料だったのか!

公募企画とリミックス

 9th styleでは公募企画から生まれた楽曲が収録されている。

3rd style時代に最初の楽曲公募があってkors kとRyu☆が採用されたんだよね(収録は4th)
4th style時代の二回目の楽曲公募は採用者ゼロ。今回は三回目になるのかー

 今回の公募企画は「Musicianship Trial」と名付けられ、楽曲の他にボーカリスト部門・リミックス部門が新設された。楽曲部門ではMt.Circle氏の「FESTA DO SOL」、ボーカリスト部門ではflare氏(lightsのボーカルを担当)が採用されている。

Musicianship Trialを紹介している電撃オンラインの記事。二回目の公募での採用者がゼロだったためか無かったことにされており、一回目の公募で採用されたkors k氏とRyu☆氏の名前が挙がっている。

 リミックス部門は公募での採用者はいなかったようだが、ビーマニアーティストらによる歴代楽曲のリミックス曲が収録されている。リミックスされた楽曲は「Abyss」「I Was The One」「OVER THE CLOUDS」「traces」などのIIDX楽曲に加え、「e-motion」「u gotta groove」といった五鍵曲のリミックスも含まれている。

e-motion 2003 -romantic extra-は五鍵コアリミのromantic styleを再度リミックスしたものだけどね
IIDXが五鍵の魂を受け継いでいく…

 このリミックス曲には4th公募勢のkors k氏とRyu☆氏が再び登場。以後、両氏は継続的にIIDXに楽曲を提供していくこととなる。

Ryu☆のAbyssリミックス、通称アビ天は物凄い人気だった…

新PCB移行の副作用?不安定な挙動

 さて、ここまで9th styleの革新的な側面を紹介してきたが、負の側面も紹介しなければならない。

 9th styleは新たな基板に移行するため相当な難産だったらしく、様々な部分に苦労の跡が見受けられる。エフェクターが使用できなくなっているほか、全体的に挙動が不安定になっている

 1st styleから8th styleまではTWINKLE基板を使用してきたIIDXだったが、Windowsベースの基板に移行するにあたりプログラムなどをそのまま流用することは難しく、開発には大きな負担がかかったものと思われる。その影響もあってか、9th styleは不具合の多いバージョンとして記憶されている方も多いのではないだろうか。

今回の「9th style」はとても難産でしたとにかく史上最凶の状態でチーム員皆ヘトヘトでしたが…なんとか無事誰も倒れることなくアップを迎えました。

今回から正式にチームに加わった人も何人かいます。きっとあまりの過酷さに後悔していることでしょう。またもや多くの人々の助けを借りて…何とか稼動できました。

9th style公式サイトFROM STAFF(KAGE氏)

制作はアップしたのですが…チーム員皆忙しすぎて体を壊している人が多いです。過労死しないように休ませたいのが本音です。

9th style公式サイトFROM STAFF(KAGE氏)
過労死ライン!これはまずいですねぇ…
9th styleの開発の大変さが垣間見える画像があるよ。まずはこれを見てほしい…

アルカディア2003年7月号の9th style紹介記事。お分かりいただけただろうか…

なんだこの画面、9th styleと全然違うじゃん!

上の画像の画面写真を拡大したもの。9th styleの開発中の画面だと思われる。曲名リストにレベル表記が無い、フォルダが無く全てのバージョンの楽曲が混在しているなど、製品版の選曲画面と大きく異なっていることが確認できる貴重な画像。

また開発中の画面が発掘されたのかー…それにしても曲名リストが簡素だなぁ
選曲リストに曲名ごとのバーが無いのでクリアランプも存在しない。レベル表記も付いてないし、作りかけの匂いがプンプンするな…
選曲画面の背景が10thっぽい!ポリゴンで動かす予定だったのかな?

製品版の8th styleと9th styleの選曲画面と比較してみると、開発中9thの選曲画面の異質さが分かる。

 この開発中の選曲画面を見るに、8th styleの選曲画面を手直しして9th styleの選曲画面を制作したわけではなく、一から作り直して8th styleと似たようなものを作り上げたように思える

 このように多くの箇所を一から作り直す必要に迫られた結果、予期せぬ不具合やプレイ感覚の差異が生じてしまったのではないだろうか

 9th styleの問題点として最も有名なのは判定のズレだろう。これまでのバージョンと比べて明らかに判定がズレていると感じたプレイヤーが多かったのである。音楽ゲームにおいて、正確な操作をしたにも拘わらず良い判定が出ないのは大きなストレスになる。当時は判定調整機能などは存在せず、プレイヤーがゲームの判定に合わせる必要があり、プレイしていて気持ちが良くないという致命的な問題を抱えていた

音ゲーはちょっとでも判定が変わると違和感が出ちゃうからなぁ…

 また、頻繁にフリーズ・再起動することも指摘されており、特に有名なのは「quasarを選ぶとフリーズしやすい」というものである。quasarは本作のワンモア楽曲であるが、この不具合のせいで「ワンモアエクストラを出現させないように」と呼びかける店舗まで出てきてしまった

quasarを出すと次のプレイでフリーズするってやつか
次の客が迷惑するというタチの悪い不具合

Windows XPの「ようこそ」画面。この画像はIIDX実機のものではないが、フリーズした場合は再起動せざるを得ないため、このような画面が表示される。旧2chではDistorteD時代まで永らく「田ミ ようこそ」とネタにされていた。

基板が変わるということは、同じような動作をするように移植するようなものだから、前の基板と完全に同じ挙動にするのは難しかったんだろうね
前の基板がスペックの限界を迎えてたから、新基板への移行は必須だったんだろうけどね
9thがネットに対応したと言っても、まだプレイデータを送受信する程度で、不具合をオンラインパッチで修正するみたいなことはできなかったようだし

 このように、9th styleは後に繋がる革新的な試みを行いながらも、終始不具合に悩まされたバージョンでもあった

 ネットをフル活用した要素は素晴らしかったものの、音楽ゲームの根幹である判定が不安定になってしまったことは深刻な問題と言えるだろう。

プレイして全然光らないのはつまらないからねぇ

十代続いたビートの血脈!10th style

9thの不満点を改善

 2004年2月18日に稼働した10th styleは、幾何学模様をイメージしたシステム画面が特徴。インターフェイスに初めて3Dモデル(ポリゴン)を使用しており、9th styleで不評だった挙動の不安定さをある程度改善し、エフェクターも使用できるようにした

「beatmaniaIIDX 10th style」が遂に完成!

beatmaniaIIDXの筐体から発するカラーの1つである青をベースとしたシステム画面の演出部分でポリゴン君の登場です。ポリポリ

10th style公式サイトFROM STAFF(HES氏)

10th styleでは、濃紺と白を基調にしたフラットな質感と、幾何学模様をベースにしたデザインが特徴なのです

10th style公式サイトFROM STAFF(VJ GYO氏)
10thといえば、赤い●が飛び跳ねるイメージ

 e-AMUSEMENTを活用した遊びもパワーアップしており、今作からDJ POINT(以下、DJP)が登場。「どれだけ沢山の楽曲をプレイしたか」を重視した「やりこみ」を評価する指標となっている。DJPはイベント動員数のようなイメージで作られたという。

DJのポイントってなんだろう?とお思いのIIDXファンの皆さんにこぼれ話をひとつ。

企画ミーティングの際に、ポイントの単位を「人」にしようというアイデアが挙がりました。どういう意味かと説明致しますと、各DJ(プレイヤーの皆さんのことです!)の「ファンクラブ会員人数」とか「イベント動員人数」みたいなイメージ

つまり、現在の1000ポイントなら、「1000人のファンがいる!」とか「観客動員数1000人!」と、曲紹介画面からプレイスタートまでの静寂の中の一瞬、目を閉じて想像してみてください…

経験が豊富になるほど、それに、実力が上がるほど増えるので、インターネットランキングや段位認定とは一風違った地道な長丁場のバトルを楽しんで頂ければ幸いです。

10th style公式サイトFROM STAFF(VJ GYO氏)
段位・ノーツレーダーにレーティングまで登場して、存在感が薄くなりつつあるDJP…

 10th styleは、前作に引き続き青色を基調としたデザインとネットワーク的な雰囲気を出しつつ、前作で感じられた不安定な判定・フリーズなどの不具合の解消を図っており、手堅くまとめてきたという印象を受ける。

 だが、判定の不安定さはある程度解消はされたものの、8th以前と比較して違和感を覚えるプレイヤーも多く、完全に解消されるには至らなかった。本作のWEEKLY RANKINGで「GAMBOL」が登場した際は誰もAAAもAAを出すことができず、Aを取れたのもトップ10名以下という異常事態が発生。GAMBOL特有の判定の厳しさに加え、判定の不安定さが解消されていなかったことを物語るエピソードである。

WeeklyVoteでの投票も本日で終了し、今週のWeekly課題曲が決定しました~

みなさんもうご存知だと思いますが今週は噂の「GAMBOL」です。^^

そこでネットワーク担当者なのをいいことに、こっそりと全国のGAMBOLの傾向を覗いて見ました。

全国のプレイヤーの(7keysモードで)中で

AAA、AAをとった人は……………0人
Aをとった人は………………10人以下

(カードを使って5Keys、ASオプションを入れていないスコアを対象)

となっています。

10th style公式サイトFROM STAFF(JONY.C氏)
9thで復活したときの判定幅が、家庭用EMPRESSの隠し要素「G.JUDGE」の元なってるんだよね
家庭用の判定はAC版と違って不安定じゃないので、この時代のGAMBOLはCS EMPの「G.JUDGE」以上に凶悪だったんだよ

 判定の問題がおおむね解消したのは、第二世代BEMANI PC基板が導入されるIIDX 14 GOLDであり、しばらくの間IIDXは判定の調整に難儀することになる。

ヒット曲のリアレンジ!J-REVIVAL

 今作では90年代のJ-POPをリアレンジした「J-REVIVAL」が登場。ZOOの「CHOO CHOO TRAIN」、THE YELLOW MONKEYの「JAM」、TMNの「一途な恋」、槇原敬之氏の「どんなときも。」がリアレンジされて収録された。

 J-POPのリアレンジ自体は、5th styleに松田聖子氏の「天国のキッス」が収録されているが、企画として複数の楽曲を同一バージョンに収録したのは今作は初めての試みであり、IIDX 26 Rootage以降の「IIDX EDITION楽曲」の源流にもなっている

今回は90年代リバイバル「J-REVIVAL」という企画をやってみました。90年代の大ヒット曲を、リアレンジしてIIDXへ収録!自分が影響を受けた曲や好きな曲を、リアレンジする本人がセレクトして制作しました

10th style公式サイトNEW SONG(TAKA氏)
そういえば、何でIIDXに「天国のキッス」を収録したんだろうか…
YMOの細野晴臣がテクノポップの技法を使って作った曲だぞ

携帯アプリ登場

 10th style時代には新たに携帯アプリが登場、iモードアプリ版「beatmaniaIIDX」がサービス開始となった。携帯電話のボタンを使ってIIDXをプレイでき、月額情報量は税込315円。後のIIDX ULTIMATE MOBILEに繋がるモバイル版IIDXの始祖である。

アルカディア2004年5月号に掲載されているiモードアプリ版IIDXの画面写真。対応機種は504&FOMA、505、900iとなっている。機種によって画質と音質が異なるらしく、900iが最高品質でプレイできると書かれている。

五鍵じゃん!しかも左皿だし。これってもしかして…?

一部で物議を醸した50th Memorial Songs -The BEMANI History-の左皿五鍵ロゴだが、五鍵ビートマニアではなく携帯アプリ版IIDXを示していた可能性が浮上した!?

この配置、完全に一致してるな!

iモード版IIDXの貴重なプレイ動画が存在していた。アルカディアの記事にオプション画面が掲載されているが、プレイサイド(ターンテーブルの左右切替)の切替はできなかった。

ずいぶん端折られたairflowだな…やはりフル尺は容量的に無理なのか…
着メロ音源を流してるだけなので、キー音も無いね

疑惑の仕様「10th SP八段」

 10th styleで最も有名な事件といえば、「SP八段 全穴化事件」だろう。本作の八段は「moon child(A)」→「雪月花(A)」→「one or eight(A)」→「No 13(A)」となっており、歴代八段の中でも規格外の高難度となっている。

 ちなみに、「雪月花(A)」はIIDX 19 Lincleの九段ボスで、「one or eight(A)」は9th十段の課題曲。「moon child(A)」と「No 13(A)」に至っては本作のSP十段にも登場している。

 つまり10th SP八段は、九段のボス曲と十段の課題曲で構成されており、十段と同等の難易度ということになる。10th style公式サイトの段位認定総覧コメント「喜びの声」(九段)には生々しい記録が残されている

八段の達成率は92%でした【九段99%合格者】

8段は1曲目で散ります【九段99%合格者】

何回やっても8・10段できません・・・【九段98%合格者】

8段ムリだから(笑【九段97%合格者】

7段99% 8段0% ポカーン【九段95%合格者】

十段出来ないよ!八段もできないよ!moon_childめ~~【九段94%合格者】

八段はコンマイさん【九段94%合格者】

八段普通に死ぬんですが…【九段93%合格者】

8段無理ですよ(ノ-`、)【九段93%合格者】

FUCK YOUぶち殺すぞ八段めが…【九段92%合格者】

次は8段だ!(´д`)【九段92%合格者】

十段>>>>>八段>>>>>(正当化バグの壁)>>>>>九段【九段91%合格者】

10th style公式サイト 段位認定コメント「喜びの声」
「喜びの声」が怨嗟に満ちている…

 後に発売されたPS2版10thのSP八段では「雪月花」と「No.13」がHYPER譜面で収録されていることからも、AC版10thのSP八段は、本来HYPER譜面にすべきところを誤ってANOTHERにしてしまったものと思われる。

 しかしながら、コナミはこれを設定ミスではなく「仕様」としている(公式サイトの段位曲目にSP八段は全てANOTHERと明記している)。

 後に、IIDX 24 SINOBUZのCLASSIC段位では「10th SP八段コース」として、全てANOTHER譜面のまま収録されている。設定ミスではないということであれば、10th SP八段は「難易度調整を大幅に見誤った八段」と評価せざるを得ないだろう。

IIDX 24 SINOBUZのCLASSIC段位で再現された10th SP八段。この時代は極段位が実装されておらず、EXPERTの1コースという扱いだからこそ収録できたのだろう。

10th styleではハイスピが3段階で、プレイ中に一切変更できないから、シノバズの10th八段は弱体化してるんだよね
10thと違って判定が安定してるし

 インターネットに接続しているなら、このような不具合はオンラインパッチで修正すべきだとお思いの方も多いだろうが、段位の曲目を変更するということは合格者の記録をリセットする必要があり、そこまで踏み切ることができなかったのだろう。

 いずれにしても、プレイヤーからは不誠実な対応と捉えられてしまっても仕方がない「仕様」であり、オンライン過渡期特有の出来事であったと言えよう。

「信号機事件」─解析との戦い

 通称「信号機事件」も、オンライン過渡期特有の事件であった。

 この時代は、オンラインサービスを導入できない店舗向けにオフラインでも稼働できる仕様になっていたため、各種要素の解禁もTEST MODE画面でのコマンド入力で行われていたのである。このコマンドをゲームセンターに通知することで擬似的な時限解禁を実現していたのだが、このコマンドが解析されてしまったという事件である。

解析内容を2chに書き込んだ人のハンドルネームが「信号機」だったんだよ
……嫌な事件だったね

 10th style時代は、インターネットランキングを期間を区切って実施していたのだが、このコマンドが広まってしまったことにより、インターネットランキング#1期間中に#2を出現させる店舗が続出してしまい、公式が対応に追われるという事態になってしまった。

 結果として、インターネットランキングの切替と連動していた楽曲解禁のタイミングを早めざるを得なくなってしまい、公式サイトではスタッフから苦言を呈するコメントが出されることになってしまう。

解禁を早めなければならなかったことは…チームとしては残念な限りです。書きたいことはたくさんありますが…他のプレーヤーの迷惑になる行為はご遠慮いただけるよう、願うばかりです。

10th style公式サイトFROM STAFF(KAGE氏)

解禁がはやまった

色々とかわいそうに。

まぁ、いいさ。

10th style公式サイトFROM STAFF(GOLI氏)

 現代であればオンラインで楽曲のデータごと配信すればよいのだが、この時代のオンラインサービスは楽曲のデータを配信することはできなかった上に、オフラインの店舗にも配慮する必要があった。解禁要素がインカムに与える影響も大きくなっており、看過できない問題となってしまったのである。

不正行為の線引き─鎮火しないタオル問題

 以前の記事「不正か合法か?プレイスタイルを巡る争い」で紹介したように、公式は紙・タオルの使用を合法と認めていた。しかし、他人に紙・タオルの位置調整を手伝ってもらうプレイヤーがおり、不正行為に当たるのではないかと物議を醸していた。

Q:インターネットランキングのマナーについての意見と要望です。以前に、紙やタオルを使ったプレイに関して、公式で「特に問題ない」と発表されていました。しかし最近は、expert modeのプレイ中に、BPM変化のある曲で人にタオルの位置を調整してもらいながらプレイする人が増えています。これは明らかに一人の力ではなくマナー違反ではないかと思うのです。

A:紙・タオルはお店に迷惑をかけない範囲なら問題ありません。紙の位置調整を他の人にやってもらうようなスタイルは1人でプレーしているとは言えずルール違反と考えております。シングルプレー、ダブルプレーは1人の力でプレーするものです。ホームページに書かれてる書かれてないに関わらず…周りの人が楽しめなくなるようなことは控えるようにお願い致します。

10th style公式サイトQ&A
SUD+の調整を他の人に手伝ってもらう行為だからこれはさすがにNG

 演奏中のハイスピ変更ができない時代、段位認定やワンモアエクストラ等、BPMに落差のある楽曲を連続でプレイすることが増えたため、このような問題が噴出してしまったのだろう。

 オンラインでプレイデータが記録され、多くのプレイヤーがランキングに参加するようになった時代。プレイヤー側のモラルがより問われる時代に突入したともいえる。

style時代が終わりを告げる

 1st styleの頃はインカムが伸びず危機的な状況から4th styleで絶頂期を迎え、10作目を迎えることができたIIDX。10th styleまでのIIDXは「style時代」と呼ばれることが多く、一つの区切りとなるバージョンでもある。

10作目という節目の今作を、今までやってきた形で最高のものを...

第二次IIDX History、ここに極る

10th style公式サイトNEW SONG(dj TAKA)
「第一次IIDX」は何作目までだったんだろう…
1st~5thが第一次IIDX、6th~10thが第二次IIDXのような気がする。何となく…

 他のビーマニシリーズが「〇th MIX」とナンバリングが打たれていたところ、唯一IIDXだけが「〇th style」という呼称を使っていた。この呼称は南雲氏が考案したものだった。

実にIIDXらしかったこの「style」という響き、確かnagureoさんが考えて、当時新人だったGOLIが賛同したんだっけ

10th style公式サイトFROM STAFF(dj TAKA)

4th style公式サイトのQJACK(孔雀)。ヘッドギアの部分に「4th style」と書かれているが…

IIDX 30 RESIDENTリザルトのQJACK。ヘッドギアの文字は「30th style」になっている。

あっ、「DOLCE.危機20連発」でL.E.D.以外誰も覚えてなかった孔雀じゃん!
ナグレオの思想はGOLIに受け継がれ、style時代は今も続いている…

 そして、これまでDJ TAKAと人気を二分し、共にIIDXを牽引してきたTaQ氏がIIDXを卒業。本作のChangesとInnocent WallsがTaQ氏の提供する最後の楽曲となった。

隣で入院してたポーランド人が「壁が白くてムカつく。無邪気な顔しやがって」とか言ってたやつかー

 五鍵との融合を果たし、オンライン要素も導入、DJ TAKA氏が「やり切った」と言い切るほど完成されたIIDXは、dj TAKAと双璧をなす片割れを失い一つの区切りを迎えた。果たして新時代のIIDXはどんな姿になるのか…プレイヤー達が固唾を飲んで見守る中、新たなバージョンが発表された。

 そこに現れたのは、11th styleではなく赫く染まったIIDXであった…

次回作がこれまでの流れに連なる「11th style」という名称にはならず、「IIDX RED」という新たなる趣向の名称に変化したのが象徴的に思えてなりません…

これまで通りであってほしいこと。もちろん、受け継いでいます。けれども、相変わらず…に見えることも何かしら変化があるかもしれません

10th style公式サイトFROM STAFF(VJ GYO)
一体どうなってしまうのかー


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