FURIMUKI style
1998.3

2ndMIX稼働!全国で大ヒット

2020年8月23日 最終更新2022年9月4日

 予想をはるかに上回る結果を出した1stMIX。しかし、制作スタッフによる市場調査の結果、主要なプレイヤーはコアユーザーであること、彼らは予想以上に上達が早くこのままでは早々に飽きられてしまう可能性が高いことが分かった。

 そこで、これらの問題を解決すべく急ピッチで開発が進められたのが2ndMIXだった。今回は、この2ndMIXについて見ていこう。

楽曲を増やせ!開発期間は2か月

 1stMIXは1997年末までに稼働させるという目標があったことから、収録曲数も少なく、コアユーザーが早々に飽きてしまうことが懸念されていた。

 そこで2ndMIXでは収録曲数を増やすと共に、コアユーザーがチャレンジできる高難度の楽曲を追加することを目標として開発を進める。

「2nd」はそのコアなプレイヤーをかなり意識した作りにしました。

「1st」もずっと後まで見ておけば、ライトユーザーがついたかもしれないんですけど。コアユーザーしか見ていない段階で「2nd」を作り始めたので、この「beatmania」のターゲットは、最初ライトユーザーを考えていたけれど、コアユーザーを想定して作らなければならないと思いました。

ビートマニア プレスミックス
短期間の市場調査で、この結論を導き出したリサーチ能力はすごい!

 ゲームメーカーがライトユーザーを取り込もうと躍起になっていた時代。しかし、安定的にゲームにお金を使ってくれるコアユーザーを軽視するような姿勢に警鐘を鳴らす声もあった。

 図らずもコアユーザーを中心にプレイされ、その様子がライトユーザーを集めるという構図になったビートマニアは、オペレーターから見ても理想的な状況になっていたのである。

 男子では80%以上がテレビゲーム(パソコンゲーム含む)で遊んでいると答えているが、女子では約半数が「全くしない」と回答するなど、男女間格差が浮き彫りになっている。

 このような傾向から「一般客の取り込みは大事だが、これまではそのことにこだわりすぎてマニアなどのコア客を少なからず減らしてしまった(中略)厳しい環境下にあってはコア客をつかんだうえで、一般客集客を図るべき」というオペレーターも現れており

アミューズメント産業 1997年12月号
この時代に増えたライトユーザーは、後々ごっそりスマホゲームに流れていってしまうんでね

 コアユーザーが1stMIXを攻略し尽くして飽きて去ってしまう前に、続編を投入する必要があると考えた制作スタッフ達は、急ピッチで2ndMIXを開発する。2ndMIXが稼働したのは1998年3月18日、制作期間は2か月程度だったという。

南雲氏:開発期間は実質2か月。1週間単位のスケジュールでしたね。曲を収録して、どういうボタン操作をするかといったデータ作成も含めて1日単位、あるいは半日単位でスケジュールを管理して発売となったわけなんです。

ビートマニア プレスミックス
今日は曲ひとつ完成させて譜面も付けてください。明日の午前中にもう一曲作ってください
ヒッ!

南雲氏:「1st」で一番難易度が高いのはハウスなんですけれども、ゲーマーと呼ばれる人がどんどんクリアをしている。そしてどんどん難しいゲーム性を要求してくる。だから「2nd」で、また楽しんでくれればいいなと。

MiZKiNG:僕はゲームバランスや難易度調整を担当したんですけど、開発の末期に部内評価をやってみて、アンケートを見ると「難しい」、「難しい」、「難しい」……ってあるんですよ。「ちょっとヤバイ」っと思って。

ビートマニア プレスミックス
部内評価で「難しすぎる」って言われるくらいがちょうどいい

 2ndMIXは難易度だけではなく、収録楽曲もコアになっていく。2ndMIXでは初めて外注アーティストを起用しているが、より本格的なクラブミュージックを収録したいという方向性が伺える。

MiZKiNG:「1st」と「2nd」が変わったところって、曲調だと思うんです。「1st」は、社内で作ったんですけれど、「2nd」から社外の方にも頼んだので。

南雲氏:ワタナベヒロシさんという、クラブミュージックの幅広い概念を持った、あらゆるジャンルを作れる方ですね。

ビートマニア プレスミックス

寒川氏:曲に関しては、『2nd MIX』から外部に制作応援を依頼することができたのですが、サウンドディレクターがこちらの意図するところを、先方に伝えるのに非常に苦労していましたね

コナミ年鑑'98
1分30秒くらいで展開の多いクラブミュージックをお願いします
ヒッ!!

AOU'98で2ndMIX制作を発表

 1998年2月18日から2日間に亘り幕張メッセで行われたAOUショー'98。このAOUショー'98で、コナミは2ndMIXを制作中であると発表した

ビートマニア 2nd mix

好評リズムアクションゲームのリニューアルバージョン。新曲を大幅に追加し、曲数を増加するほか、プレイヤーのレベルに合わせたコースセレクトを設ける(初心者も楽しめる練習コースも設定)。

また、コース中の分岐ポイントも増加して進行展開を多彩にした。

アミューズメント産業 1998年3月号
コース中の分岐ポイント?
多分、各ステージで選曲できる曲目が増えたってことだと思う。

 しかし、AOUショー'98では2ndMIXの展示は無く、出展されていたのは既に稼働中の1stMIXだった。しかし、会場では1stMIXの周りに人だかりができていたという。

AOUショー'98に出展されていた1stMIXの様子。稼働中のゲームにも関わらず、ものすごい人だかりができている。

その中でも勢いを増していたのが、ビートマニア。もう発売されているというにもかかわらず、辺りにはまぁ人がわらわらと…私(K-TAN)みたいなメタラーでも楽しめそうだ。

スーさん曰く、「あれだけ周りにいる人たちと一体になれるのは凄い!あれをやればヒーローになれる」と、鼻息荒く語ってくれた。今では、2人用を一人でやるのが通らしい

ゲーメスト 1998年4月15日号
これが平成のHEROIC VERSEか!

 このAOUショー'98で注目を集めていたのは3D対戦ゲーム。セガの「バーチャロン オラトリオ・タングラム」や、ナムコの「エアガイツ」などが話題になっていた。

 コナミブースでも、新作3D対戦格闘ゲームとして「バトルトライスト」が出展されていた。

バトルトライスト!パステルさんがラスボスで登場するやつか! 合言葉はー?
わ~い らくち~ん!
超先パイに向かってなんてことを…

ゲーメスト 1998年4月15日号のAOUショー'98特集。同誌で期待度が群を抜いて高かったのは「バーチャロン オラトリオ・タングラム」で、2位以下は「スターグラディエイター」「エアガイツ」と3D対戦格闘ゲームが続く。

 ゲーメストでは、AOUショー'98の総括として「対戦格闘ゲーム以外の新ジャンルが必要」と訴えているものの、「新しいジャンルを確立できるような作品は無かった」と評している。

対戦格闘ゲームに比べ、ほかのジャンルは工夫に乏しく、これといって新しいものが感じられなかった。一見、新しそうなものはあったが、ジャンルを確立し、シリーズものとして期待してくれるものがあったか疑問である。

特に、せつな的な楽しさしかない、一般向けのゲームの数々が気になるところだ。一般向けといっても、電車でGO!などのように、ゲーム性・リピート性は大事だと思うのだが、どうなのだろうか?

一般向けのゲームでも、付加価値としてゲームっぽい部分があったほうが、リピート性が高い。家庭用に移植したときにも強みになる。

ゲーメスト 1998年4月15日号「石井ぜんじもの申す」
1stMIXは「リピート性が弱い一般向けゲーム」の一つという見立てか。新ジャンルになるには力不足ってことかな?
1stMIXの弱点を見事に突いている。さすが!

2ndMIX稼働!密かに仕込まれたDPモード

 こうして1998年3月18日に稼働した2ndMIX。入念な市場調査を行った結果が反映され、ゲーム内容も1stMIXと比べて大幅にボリュームアップしている。

 一方で、1クレジットでプレイできるステージ数は少なくなり回転率は向上。1stMIXではプレイ待ちの行列が常時発生していたことから、待ち時間の短縮とインカム増加を狙ったものであろう。

コアユーザーも満足?HOUSE超えの高難度楽曲

 2ndMIXで最も話題になったのは、前作の最高難度の楽曲「20,NOVEMVER」を上回る高難度曲が複数収録されていることだろう。

 特に有名なのがSKA「SKA A GO GO」の終盤、BPM160の16分ゴミつきトリルである。あまりの密度の高さから「SKAの滝」と呼ばれた元祖ラス殺し譜面である。

SKAの滝対策で、プレイヤーのあんみつ氏が編み出した「あんみつ打法」はあまりにも有名

プログラマーが内緒で仕込んだ隠し要素「ダブルプレイ」

 1stMIXで早々に全曲クリアしたコアユーザーの中には、画面を隠してプレイしたり、一人で2P用モードをプレイするパフォーマンスを行う猛者もいたことから、2ndMIXではこのようなプレイヤーに向けて「ヒドゥンプレイ」「ダブルプレイ」という隠しモードが搭載された。

 この2つのゲームモードは、製作スタッフの数人がこっそり仕込んでいたという。この遊び心が無ければDPは実装されていなかったかも知れない。制作陣の中でしっかりと話し合って実装されたものではなかったことは興味深い。

岡本部長:実はあの案は私も知らなかったんです(笑)。

寒川氏:開発でもほとんどは知らなかったと思います。知っていたのは私とソフトウエア担当とキャラクター担当の3人ぐらいでしたね。

岡本部長:誰も知らなかったよね。

寒川氏:結構秘密にしていたんですよ。あれはいくつか上がった案の中のふたつなんです

ビートマニア プレスミックス
開発者が勝手に仕込んだ系のエピソードだ!他にはどんな案があったのかな?
間違った演奏をするとグルーヴゲージの所にいるDANCE BOYが変な動きになる案もあったらしい

 内緒で仕込んだモードとはいえ、この2つのモードは、1stMIXがコアユーザーにどのように遊ばれていたかを調査した結果を踏まえて実装されたものである。特にダブルプレイは現在も多くのプレイヤーが存在しており、2ndMIX開発時のスタッフのリサーチが優秀だったことを物語っている。

実際、ホームページを作っている方にも会って、いろいろ聞いて。ヒドゥンプレイは「下だけ隠しているんだ」って聞いて、だから途中から消えるんですよ。でも後から聞いたところによると「全面隠す人もいた」とか。

ビートマニア プレスミックス
ucchy's page管理人達との座談会が活かされてるようで何より

1クレで遊べる曲数が5曲→4曲に減少

 1stMIXは「1面→2面→DJ BATTLE→3面→4面」の5曲設定だが、2ndMIXではDJ BATTLEが3面の選択肢に含まれているため4曲設定となっている。1クレジットあたりのプレイ時間を短くすることでインカム向上を図った仕様だと思われる。

 余談だが、1stMIXのDJ BATTLEはオマケステージのような扱いで、開始前に「SPECIAL STAGE!!」という画面が表示される。2ndMIX以降は表示されなくなっており、楽曲の一つという扱いになっている。

1stMIXのDJ BATTLE限定の演出。IIDX 27 SINOBUZの「Beat Juggling Mix」のムービーは、レアな1stMIX版演出を基にしたネタが入っている。

ちゃんと1stMIX版の演出を拾ってるのはさすが!

EXPERT MODEの仕様が変更

 1stMIXのEXPERT MODEは「DJ BATTLE」以外の収録曲(7曲)を、ノーマルゲージ(減少量が大きい)で連続プレイできるモードだった。1クレジットで収録曲のほぼ全てを遊べる仕様であり、全曲クリアできるプレイヤーならEXPERTで遊んだ方が得であった。

 2ndMIXはコースごとに既定の5曲をノーマルゲージ(減少量が大きい)で連続プレイする形式に変更されている。

さすがにデメリットがほとんど無くて1クレ7曲は大盤振る舞い過ぎたかー
一応THE FINALにも同じコースあるけど、シリーズ末期とは期待できる回転率が全然違うからねぇ…

初心者にも配慮したプラクティスモード追加

 前作もプレイ開始時に選択できたプラクティスステージが専用のモードになっている。プラクティス自体の尺も長くなり、その後「U GOTTA GROOVE」と「JAM JAM REGGAE」をプレイしてゲーム終了となる。

 初心者が誤って難しい曲を選んでしまう事故が起きなくなるというメリットはあるが、1クレジットで遊べるのがプラクティスを含めて3曲と少ない点や、「U GOTTA GROOVE」をクリアできないとGAME OVERになってしまう(3曲保障ではない)点など、現行IIDXの初心者用モードと比べると厳しい仕様ではある。

1クレで沢山プレイしたいなら上手くなれ!
現行IIDXでも、1クレで4曲遊ぶにはそれなりの腕前を求められるから、スパルタンな仕様は伝統なのかも…

判定とフリーゾーンの仕様変更

 1stMIXの最低の判定は「WORST」だったが、2ndMIXは「POOR」に変更された。

 また、2ndMIXではフリースクラッチゾーンにノーツが追加されており、ノーツ通りに操作をするとGREATになる(1stMIXではフリースクラッチゾーンでGREATを取ることはできなかった)。

他にもスクラッチを回す方向で違う音が鳴るノーツがあったり、BGアニメが若干違ったりするよ

ブームに気付き始めたゲームメディア

 これまでビートマニアを取り上げていたメディアは「東京Walker」や「ホットドッグプレス」などの一般誌で、ゲーム専門誌ではほとんど紹介されていなかった

 1997年12月、1stMIXが稼働してゲームセンターの風景が一変してから3ヶ月。これまでエレメカの域を出ないマシンと捉えていたからか、ビートマニアをあまり大きく扱ってこなかったゲーム専門誌も、このブームを察知して2ndMIXを取り上げ始めるようになっていく

ゲーム専門誌なら1stMIX稼働直後から特集を組むべきでは?
メディア主導じゃなくて、ユーザーサイドで自然に起きたブームだったってことだよ

ファミ通 1998年4月3日号にビートマニアの記事が掲載。1stMIX開発中の画面にあったオーディオビジュアライザーが復活している。

新しい音楽が追加され、しかも音楽が途中で変化していくので、前作をやり込んだ人も新たな気分で楽しめるはずだ。ぜひとも人気DJ気分になって「ギュコギュコギュコギュイギュイギュイギュイ!」とド派手にターンテーブルを回しまくっていただきたい。

ファミ通 1998年3月号
ギュコギュコギュイギュイうるさい!!
上の画面写真、グリッド線が残ったままだけど、加工した画面写真なのかな?
「音楽が途中で変化」ってのはDJ BATTLEの譜面がランダムで変化するようになった話だろうね

マイコンBASICマガジン(1998年6月号)。曲数が「13曲+α」とあるが、得点によって出現する楽曲を加えると2ndMIXの」収録曲は20曲を超える。なお「3段階の難易度」というのは前述のゲームモードのことであり、N/H/A譜面のようなものではない。

ファミ通と同じグリッド線のある画面写真…コナミが提供した画像だなこれは
スコアや譜面がダミーなのはいいとして、またオーディオビジュアライザーが復活してる。結局ボツになるけど

 2ndMIXの開発中画像と思われるこの写真。グリッド線が残っていることから、コナミがメディア用に提供する際に何らかの加工をしたものと思われる。

 グルーヴゲージ下にオーディオビジュアライザーが表示されているが、これは1stMIXの開発中画像と同じものである。

 1stMIXの開発中画面をハメコミ合成したとも考えられるが、わざわざ手間をかけて合成する必要性が感じられない。「1stMIXの稼働直前段階の画像を提供した」もしくは「2ndMIXの開発中に再度オーディオビジュアライザーを復活させたが、結局またボツにした」のどちらかではないだろうか。

どちらにしても、オーディオビジュアライザーに対するこだわりを感じるな…

2ndMIX、ランキング一位を独走!

 「五鍵ビートマニアは2ndMIXでブレイクした」という印象を持っているプレイヤーは多い。業界紙「アミューズメント産業」に毎月掲載されるインカムランキングにおいても、2ndMIXは稼働期間を通して1stMIXのインカムを一度も下回ることはなかった。1stMIX時代のインカムも相当なものであったことを考えると、2ndMIX時代の人気は凄まじいものだったといえる。

 1stMIXのヒットを受けて、2ndMIXは大量に出荷されたため全国のゲームセンターに普及していく。「1stMIXは見たことが無いが、2ndMIXはプレイした」というユーザーが多いのはこのためである。

 業界紙「ゲームマシン」で集計されていたオペレーター目線のランキングでは、2ndMIXは6ヶ月の稼働期間を通して1位を取り続けた。なお、2ndMIXを2位に陥落させたのは3rdMIXである。

 また、業界誌「アミューズメント産業」では、この時期からプレイヤーに女性が増えてきたと書かれている。このような時期に、コナミはpop'n musicの開発をスタートさせている。直営のゲームセンターを持ち、ユーザーの動向などを細やかに分析するなど、コナミのマーケティングの能力の高さが垣間見える。

今までプレイしなかった女の子が目立つようになってきた。まだ、DJ風の男子より操作が上手くないので、インカム上昇中」

アミューズメント産業 1998年6月号

「新規顧客層や女性客が取り込めた」という声がある他、プレイ料金を100円にしている店舗では「まだ200円プレイが主流なので、割安感から2度3度とコンティニューする姿が見受けられる」という。

アミューズメント産業 1998年8月号

 このように、1stMIXの熱が冷めないうちに続編を投入したのは大成功だったと言える。AERA1998年11月16日号に掲載されている「踊る世紀末ゲーム」では、音楽ゲームがつかんだ顧客層には、ライトユーザーだけでなく、従来の格闘ゲームブーム時とは異なる層のゲーマーも含まれているのではないかと分析している。

「格闘技ゲームのような『かけひき』はない。機械に対していかに正確に反応できるか。ゲームのモチーフとしては『モグラ叩き』と同じなんです」

「格闘技は、勝つか負けるかのゲームです。この不況で気分が落ち込んでいるときに『おれ負けたんだ』という気分は味わいたくない。ダンス系ゲームは、曲さえ覚えれば、うまく反応できるから、単純な気持ちよさがある」

「闘うことに疲れたんじゃないですか」と結んだ。

AERA 1998年11月16日号
闘うことに疲れた音ゲーマーも、20年後には闘いと駆け引きを求めBPLとARENAに集う
世に平穏のあらんことを

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