ビートマニア1stMIX稼働!
予想外のヒットと見えてきた課題
1997年12月上旬、遂に全国のゲームセンターでビートマニア(以下、1stMIX)が稼働した。当初の狙い通りゲームセンターに新しい客層を呼び込み大成功を収めた本作だったが、開発スタッフ達はある違和感を覚えていた。
(このままではすぐに飽きられてしまう!)危機感を募らせた開発スタッフ達は急遽リサーチを行い、次の一手を打つこととなる。
一体、何が起こっていたのか?稼働日前後の出来事を見ていこう。
読めないインカム、慎重な出荷
コナミは12月1日~2日に神奈川県座間市のGM機器事業本部で、オペレーターや報道関係者を対象にしたプライベートショーを開催した。このショーは、新作のお披露目と商談会を兼ねたものであり、1stMIXも出展されていた。
業界誌ゲームマシンによると、この段階での発売日は「12月下旬」とされているが、実際の稼働日は12月上旬であり、予定より早く稼働したことになる。
「ビートマニア」=画面の指示と流れるメロディーに合わせ、ターンテーブルとキーボードでビートを奏でるというDJシミュレーションゲーム機。OP価格九十六万円で十二月下旬発売予定。
ゲームマシン 1998年1月1・15日第556号11頁
1stMIXの稼働日は1997年12月10日とされている。しかし、ucchy's page管理人の記録によると、GAMEサントロペ池袋では1997年12月6日に稼働したようで、店舗によってバラつきがあったものと思われる。
1stMIXは納期に間に合わせるために収録曲数は少なく、果たしてどの程度人気が出るのかコナミもオペレーターも半信半疑だったようだ。後に、GM機器事業本部の木戸常務は経済雑誌「経済界」のインタビューでこう振り返っている。
木戸常務:とにかく年末に間に合わせようと急いだので曲数は八曲と少なく不安はありましたし、全く新しいものということでゲームセンター側も不安。そこで当初の出荷は慎重を期しました
経済界 1999新春特大号
メーカーもオペレーターも現状を打破する斬新なゲームを求めていたにもかかわらず、いざ全く新しいジャンルのゲームが現れると戸惑ってしまった。過去の実績も無く、どの程度インカムを稼ぎ出せるのか不透明な作品を導入する店舗は限られていた。
不況の影響が当業界にも長く影をおとし、メーカー、オペレーター共に安定した売上げを得ることに必死だった。
AM自販機やキャラクタープライズなど、とにかく実績があって売り上げが見込めるもの、それだけに躍起になっていた時代。そんなところへまったく新しいコンセプトのゲーム機が現れたのだ、素直にその可能性を見いだせた人は限りなく少ないだろう。
大半のオペレーターが様子を見ようと静観する中、一部オペレーターでは早々に導入して運用を始めた。(中略)その行動の正否はすぐに明らかとなった。
コインジャーナル 1999年4月号
かつてインベーダーブームと共に乱立したゲームセンターは、当時は装置産業とされていた。ゲーム機を置いて電源を入れておけば、客が来て勝手にお金を入れてくれる。オペレーターは最低限の管理だけしていればいいという考え方だ。
その後、バブルが崩壊し平成不況に突入する中で、そのようなオペレーターが淘汰され、経営ノウハウの蓄積されたチェーン店と、ゲームに対する知識や愛着のある個人店が生き残っていく…というのがゲームセンターの歴史である。1stMIX稼働時のオペレーター間の温度差はその縮図でもある。
1stMIXの出荷台数は少なく、導入に慎重なオペレーターも多かったが、ロケテストでの盛況ぶりやユーザー間のネットでの盛り上がり等の情報を得て1stMIXの導入に踏み切った店舗には莫大なインカムがもたらされた。
ギャラリーが生み出す好循環
1stMIXが稼働して最初にゲームセンターで起きた出来事は、まさにロケテストの再現であった。未知のゲームに対する警戒心なのか、プレイすることが恥ずかしいのか、最初のプレイヤーが筐体の前に立ってコインを入れるまでのハードルは高かった。
しかし誰かがプレイを初めれば、筐体からは大音量の音楽が流れ出し、筐体の周りにはギャラリーが集まった。そして、遠くから人だかりを見て更に観客が集まるという具合だ。
田中常務:正直に言いますと私たちも半信半疑でしたので出してみるまで分からないという部分はありました。12月に多少の市場サンプルを出した時も、兆しはまだ見えていませんでした。
田中常務:アーケードゲームというのはパッと見たときに、「あ、面白そうだ」と感じさせ、これにお金を入れて遊ぶとこんな楽しみがあるんだな、と訴えられることが大事です。ビートマニアというのはその点が少し弱かったのです。
田中常務:市場に出てからの動向でも、エンドユーザーが率先して遊ぶまでに少し時間がかかっていました。
コインジャーナル 1999年5月号
とはいえ、台数を絞って出荷された1stMIXを導入できた店舗は少なく、ブームは大都市圏から数か月かけて全国に広がっていったようだ。数少ない設置店舗にプレイヤーが殺到し、設置に二の足を踏んでいたオペレーターにもその噂は広まっていく。
出荷台数の絞り込みもあってか、逆にマニアの間では急速に認知を得る。
経済界 1999新春特大号
田中常務:音ですね。プレイヤーの姿とその人達が奏でる音楽、格好よくやってる人は格好いい音楽が流れます。プレイスタイルがイメージを大きくしていた、それがビートマニアを盛り上げてくれたのでしょう。
田中常務:実際にブレイクしはじめたのは98年の2月頃で、大都市圏から地方へと派生していく形でした。
コインジャーナル 1999年5月号
KONAMI arcade magazine vol.4。これはコナミの販促用の写真だが、稼働当時は実際にこのような状態だった。(※KONAMI arcade magazineの画像はさつや様にご提供頂きました)
ユーザー主導で起こしたブーム
1stMIXを導入した店舗ではインカム面だけでなく、来店客の傾向も変化していった。当初狙っていた新規顧客の開拓に成功しているのだ。
色々な客層の方がプレイされていますが、中でも音楽が好きそうな、見た目で言えばおしゃれな服装の方が目立ちますね(関東・Kオペレーター)。
音楽とプレイヤーのスタイルに引きつけられて、ギャラリーが多くついています。一人のプレイが終わると、そのギャラリー中から次のプレイヤーが出てくるといった感じです(京阪神。K店長)。
全般的に、新規客が増えたという評価が多く、そのアイキャッチ性の高さから店頭に設置している店舗も多く見られた。
コインジャーナル 1998年2月号
同ゲームのあるロケーションでは開店から閉店まで音楽が鳴りっぱなしのフル稼働。誰かがプレイしていても常にプレイ待ちのお客が筐体付近におり、行列ができる店舗もしばしば見受けられた。
AM自販機ブーム以来、久々の行列である。しかも、AM自販機の行列はそれのみが目当ての女子高生が主だったのに対し、こちらの客層はゲーマーを核に一般層まで及んでおり、ロケーションへ様々な人の足を向けさせた。
このヒット、状況から見て取るにはユーザーサイドが巻き起こしたブームと思われる。多くの場合においてブームとはそういったものであろう。
コインジャーナル 1999年4月号
オペレーター向けに発行されていたフリーペーパーKONAMI arcade magazine vol.4では「ビートマニアインカムアップへの3つの法則」として、インカムを向上させるためのアドバイスが書かれている。
1.音量は可能な限り大きく。
特に低音。他のビデオ系ゲームの支障をきたさないようにシール機やプライズ機などの近くに置く。PCB群の中に埋もれてしまうのはあまりお勧めできません。
2.少し暗い場所に置く。
少し暗い場所でネオン管のアイキャッチ効果をうまく利用します。明るすぎる場所は効果を半減させてしまいます。
3.筐体の両隣とプレイヤーの後方にスペースの余裕を持たせる。
今までプリクラが置いてあった場所やアップライトが並べられてある列の一番端の通路などに置いて、サイドに若干のスペースがあるとお客さんが付きやすくなります。これはギャラリーの目にとまりやすく、見やすい環境を作るということです。
KONAMI arcade magazine vol.4
KONAMI arcade magazine vol.4より。この販促誌が配布されたのは1998年3月頃だが、2ndMIX稼働直前になっても1stMIXは絶好調だったようだ。
ブームに気付き始めたメディア
1stMIXが盛り上がりを見せる中で、各種メディアはその熱狂ぶりを取材し始める。
ゲームセンターに訪れた新しいムーヴメントを真っ先に取り上げたのは、ゲーム専門誌ではなく一般的な週刊誌だった。KONAMI arcade magazine vol.4に紹介されているだけでも、かなり幅広い読者層の雑誌に掲載されていたことがわかる。
人気雑誌で続々紹介!話題性でも負けません!
GROOVE、東京ウォーカー、関西ウォーカー、ホットドッグプレス、MONOマガジン、FLASH、週間宝石、ビッグコミックスピリッツ、プレイボーイなどなどここには書ききれないほどの人気ぶりです。
KONAMI arcade magazine vol.4
monoマガジン1997年12月16日号。同誌の読者層は購買意欲の高い20代~40代の男性が中心とのこと。
関西ウォーカー1998年1月20日号。男女問わず20代~30代の読者をメインとする。やはりこの読者層には体感ゲームがウケるようだ。
ホットドッグプレス1998年1月25月号。かつて存在した男子高校生~大学生に特化した雑誌。現在も同名の電子雑誌が存在するが、内容は大きく異なる。
ビッグコミックスピリッツ1998年2月16月号。大学生から若手サラリーマンまで幅広い読者を有する漫画雑誌。この記事では「DJゲーム」としてビートマニアの他にスパイクの「DJウォーズ」と、ソニーの「グルーヴ地獄V」が特集されている。
一般誌がこぞって1stMIXを取り上げたのと対照的に、この時ゲーム専門誌はビートマニアを全くといっていいほど取り上げていなかった。体感ゲームやエレメカのカテゴリーに近いと思われていたビートマニアはゲーム雑誌で大きく扱うようなジャンルではなかったのだ。
ビデオゲーム機2年5ヶ月ぶりの快挙
この時期のビデオゲームは「冬の時代」と呼ばれるほど厳しい状況だった。業界誌「アミューズメント産業」1997年12月中旬調べのランキングではインカム1位から6位までをプライズ機が独占しており、ビデオゲーム機は7位に「バーチャストライカー2」、12位に「ロストワールド:ジュラシックパーク」、13位に「電車でGO!」がランクインしている状況だった。
そんな中、1stMIXのヒットは数字にも表れ始める。複数の業界誌が集計するインカムランキングの上位に1stMIXが登場したのだ。
業界誌「アミューズメント産業」1998年1月中旬調べのランキングでは、依然として1位~3位はプライズ機が占めているものの、ビートマニアは初登場4位にランクイン。新たな顧客層を開拓しつつインカムも好調と紹介されている。
『ビートマニア』は、「最近はヤング層だけでなく、会社員などもプレイしており、幅広い層に利用されつつある」
一方、「曲のジャンルがもっと欲しい」「点数バックアップシステムがなく、翌日には前日のハイスコアが消えてしまうので、この点の改良を望む」との声も。また、「他のゲームの音に負けないようにボリュームを大きくしたところ、近所から苦情がきた」という店舗もあった。
アミューズメント産業 1998年2月号
業界誌「コインジャーナル」のインカムランキングにも1stMIXが登場している。総合順位は7位(初登場)→5位→5位と推移しているが、導入店舗のインカム貢献度ランキングでは1位→1位→1位とトップを独走している。
KONAMI arcade magazine vol.4より。稼働から一か月以上経ってもインカムは高止まりしているようだ。
そして、業界誌「ゲームマシン」(1998年3月1日号)のランキングでは、ビートマニアが1位を獲得。このランキングは、ゲーセンオペレーターから見た売上と人気度を10点満点で数値化し、全体の平均値を順位化したもので、ビートマニアの得点は8.91点だった。
「アミューズメント産業」(1998年4月号)のインカムランキングでも1stMIXが1位になっている。このランキングでビデオゲームが1位を取ったのは2年5ヶ月ぶりだった。
ゲームマシン誌はオペレーターからの評価、アミューズメント産業誌はプレイヤー側からの評価(インカム)であり、オペレーター・ユーザーの両方から最高の評価を得たといえる。
今回も1位が2万円を割る低調さだが、4位、2位と着実に順位を上げてきた「ビートマニア」が、プライズ機、AM自販機以外では「バーチャコップ2」以来2年5ヵ月振りとなる1位を獲得。
アミューズメント産業 1998年4月号
予想外の動向、見えてきた課題
コナミ社内でも予想できなかった大ヒット。開発スタッフ達はヒットの要因を探るべく市場調査を行っていた。その結果、浮かび上がってきたのは想定外の事実だった。
ビートマニアの筐体にギャラリー達を惹きつける派手なパフォーマンスやハイレベルなプレイをしていたのはコアユーザーだったのである。
これまで述べてきたように、ビートマニアの筐体や画面自体には思ったほどの集客力は無く、プレイヤーの姿と演奏される音楽に惹きつけられてギャラリーが集まっている…というのが当時の製作スタッフ達の見立てである。
つまり、ライトユーザーを呼び込んでいるのはコアユーザーであり、コアユーザーにリピートしてもらうことが重要であるということに気付いたのである。
はじめ狙っていたプレイヤー層というのは、あまりゲームをしない男の子や女の子だったんですよ。にも関わらず、コアなプレイヤーがついた……
この「beatmania」のターゲットは、最初ライトユーザーを考えていたけれど、コアユーザーを想定して作らなければならないと思いました。
ビートマニア プレスミックス
コナミ社内でもエレメカに近いカテゴリーとして認識していたゲームが、コアユーザーを惹きつけたのはなぜなのか。コインジャーナルでは以下のように分析している。
実はゲーマーの中には自分の上手いプレイを他社に見られたいという願望を持っている人が多く、彼らは高難度のシューティングゲームをクリアしたり対戦格闘で勝ち抜くといった形でその欲求を満たしている。
しかし、そのプレイ内容の素晴らしさは同じ嗜好を持つ人しか理解できず、またビデオゲーム用筐体はギャラリーにプレイをアピールするには不向きな機械であるなど、完全に満足させるものではなかった。
そんなゲーマーたちの願望を見事にかなえたのが同ジャンルである。(中略)さらに、ゲーマーがもっとも得意とする「ゲームを極める」「高得点を目指す」ことで、演奏される音楽の旋律は美しくなり、自分をより強くアピールできる。彼らはさらなる高みを目指してゲームをやり込むこととなる。
コインジャーナル 4月号
制作スタッフ達の調査はプレイヤーのコミュニティーにまで及ぶ。なんと、コアユーザーを集めた座談会を開いており、その席には当時ビートマニアのホームページを制作し、全国のプレイヤーが集まる掲示板を運営していたUさんもいたのである。
記者:最初にこのゲームをやった感想、それと自分でホームページを作ろうと思ったきっかけを教えて下さい。
Uさん:最初にこのゲームを見たときはパラッパの亜流かとも思いましたが、1回やってみると「リズムやリフがこれほど気持ちいいものか」と思い、すぐにはまってしまったんです。何しろうまいとお店のヒーローになれますし。「これは大ブームになる」という直感が走ってすぐにホームページで日記や攻略法、ファンの掲示板のコーナーを設けました。
KONAMI arcade magazine vol.4
KONAMI arcade magazine vol.4より。モニタを新聞紙で覆ってエキスパートを全曲クリアしたという大学生。当時は大学ノートなどを立て掛けて、擬似HID+に挑戦するプレイヤーも散見された。
Uさん:最近の傾向としては、発売当時はハウスをクリアすると後ろでギャラリーの「オォー」という歓声が聞こえてましたが、最近はクリアしたら2,3度うなずくギャラリーが増えて、みんなレベルが上がってきているなというのを感じます。
KONAMI arcade magazine vol.4
Uさん:関東では純粋にスコアを競うプレイヤーが多かったのですが、関西ではパフォーマンス性を高めたがる傾向があるようです。1p2pを同時に一人でやったり、目隠しプレイ、両手をクロスさせるプレイ、アドリブプレイ、片手プレイなんかも価値が高いみたいですね。中には激しく踊りながらやる人も目撃されています。
KONAMI arcade magazine vol.4
プレイヤーコミュニティーへの取材で改めて浮き彫りになったのは、コアユーザーは既に収録曲を全てクリアしてしまっており、自分たちで更に高難度のプレイに挑み続けているという状況だった。
プレイヤーが最高のアイキャッチになるビートマニア。コアユーザーが離れてしまえばせっかく火が付いたブームは早々に終息してしまうだろう。彼らを飽きさせないためには早急に続編を作る必要があり、そこには更に高難度の楽曲を収録する必要がある。
制作スタッフ達は取材結果を踏まえて2ndMIX制作に取り掛かることになった。
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