振り向き厨UzeeEE!スレ20周年記念
振り向き厨の歴史
2005年10月26日、巨大掲示板2ちゃんねる(現在の5ちゃんねる)内の音ゲー板に1つのスレッドが作られた。
最初に投稿された内容は上の画像のように、何かの筐体で遊んでいる人がこっちを見る2コマのアスキーアート(文字で表現された絵)だった。
スレッドの名前は「振り向き厨uzeeeeeeeeeeeee!」。当時、音ゲー板にはクソスレ(スレッドを立てた意図が不明、内容が不適切なスレッドに対する蔑称)が乱立しており、この「振り向き厨uzeeeeeeeeeeeee!」スレッドもそのようなクソスレの1つであると思われていた。
ところが、このスレッドは予想に反して投稿が増えていき、当時のネットミームとなっていく。
今回は、振り向き厨スレッド生誕20周年を記念して、振り向き厨の歴史について見ていこうと思う。
振り向き厨とは?
どうして後ろを振り向くの?
「振り向き厨」とは、ゲームセンターでプレイ中に横や後ろを振り向く人のことである。振り向く理由としては「人の気配を感じた」「順番待ちの人がいないかの確認」「自分のプレイをアピールしたい」などが考えられる。
「厨」とは、当時のインターネットスラングで「中学生」を意味し(「中坊」から転じた「厨房」を略して「〇×厨」としたもの)、「ふるまいが稚拙である」というニュアンスの蔑称である。
「誰かの気配を感じた」「順番待ちの確認」などは一般的に行う動作であるが、「自己アピール」や「必要以上に後ろを振り返って来る」などの行為は、人によっては不快感を覚えるため、このような用語が生まれたものと思われる。
振り向き厨スレpt.1より。IIDXのDoLLという楽曲をプレイし、リザルト画面振り向いているアスキーアート。このような行為に対してUzeeee!(ウザい)というのがこのスレッドのタイトルの由来である。
2ちゃんねるとは
2ちゃんねる(現5ちゃんねる)とは、西村博之氏が開設した巨大掲示板群であり、SNSが存在しない時代に匿名での雑談や情報交換等が活発に行われていたインターネット上の言論空間である。
2ちゃんねるには、大まかなジャンル分けとして「〇〇板」(例:音ゲー板)が存在し、これらの「板」の中に細かい話題ごとに無数の掲示板「スレッド」(例:家庭用IIDXスレッド)が存在している。
アスキーアートという文化
アスキーアートとは、文字を組み合わせて絵のように見せる表現手法である。
2005年当時は2ちゃんねるを中心にアスキーアート文化が隆盛を極めていた。上で紹介した「振り向き厨と筐体」を表現したテキストもアスキーアートの一種である。
文字を組み合わせることで、プレイヤーの様子やキャラクターを表現した一例。
アスキーアートは、Windowsの標準フォントである「MS Pゴシック」で表示される前提で作られており、当時90%以上をWindowsが占めていたこと、インターネットは主にパソコンで閲覧していたことから成り立っていた文化だった。
ゆえに、スマートフォン用ブラウザにより異なるフォントで閲覧すると表示が崩れてしまうという欠点がある。時が流れ、インターネットが主にスマートフォンで閲覧されるようになり、SNSの登場で掲示板文化が廃れてきたことから、アスキーアートという表現文化は衰退していった。
なぜ「振り向き」が注目されたのか
表現技法としての「振り向き」
人物が「振り向く」という表現は、古来より用いられていた。
動画などが存在しない時代、静止画や彫像などで立体感や躍動感を表現するための手法として「体のひねり」「振り返る」というデザインが用いられていたのである。
菱川師宣作「見返り美人図」。江戸初期に描かれた浮世絵である。静止画でありながら動きを感じさせる表現、女性の表情・着物の帯や柄を一枚の絵に収める表現手法が特徴的である。
コンピューターゲームにおける振り向き
コンピューターゲームにおける振り向き表現で有名なのが「振り向きリリア」である。
1988年に発売された「イースII」のオープニングムービーで、ヒロインのキャラクターが振り向くアニメーションが用いられている。当時としては画期的な表現技術であり、多くのプレイヤーがこの「振り向きリリア」に衝撃を受けた。
イースII(PC-8801mkIISR版)の「振り向きリリア」(※外部リンク 音声が流れます)。当時のパソコンの性能で、このサイズのキャラクターがアニメーションするというのは非常に珍しく、当時のプレイヤーを驚かせた。
この表現が画期的だったという話は「リリアの振り向きアニメーションでパソコンゲーマーは白目むいて気絶?1988年発売の「イースII」が当時どれだけ衝撃的だったかという話」でまとめられているので詳しく知りたい方はそちらをご覧いただきたい。
「振り向きリリア」が大きな反響を呼んだ要因は、キャラクターデザインの秀逸さだけでなく、「振り向いてこっちを見る=プレイヤーと目が合う」ことで強く印象に残るという人間の本能によるところも大きい。
人間は視線が合うことにより「警戒」「親近感」といった感情を本能的に抱くことになるのである。
振り向き厨の発展
振り向きセリカ
振り向き厨スレに話を戻そう。
スレッドが立ってから2日後の2005年10月28日、以下のようなアスキーアートが投稿された。
振り向き厨スレpt.1より。当時稼働していた「IIDX 12 HAPPY SKY」の新曲「EDEN」をプレイしながら振り向いている様子をアスキーアートにしている。
これは、IIDX 12 HAPPY SKYに収録されているEDENのムービーに合わせて振り向いているというネタである。この投稿は反響を呼び、スレッドの勢いは増していくことになった。
これに伴い、「( ゚д゚ )彡そう!」という表現がネットスラングとして多用されるようになる。
EDENの「翔ばたきたい」→「そう!」の部分でセリカが振り向くシーンが挿入される。
この投稿が特徴的なのは、このスレッドの当初の趣旨である「ゲーセンで振り向いてくる人がウザい」というマナーのようなものと異なり、「ムービーに合わせたパフォーマンスとしての振り向き」を見出した点。また、上で紹介した「クラッシャー股全開DoLLer」のアスキーアートで用いられていた「彡」という文字を用いることで、動きを表現した点にあるといえる。
振り向く様子を一行で「( ゚д゚ )彡そう!」と表現することができるため、手軽に入力することが可能となり、汎用性が高いことからこの表現は拡散されていった。
なお、このアスキーアートは、ガイドライン板で2005年10月17日に立てられた「( ゚д゚ ) のガイドライン」が元になっている。元ネタが投稿されてから9日後という早い段階で、音ゲー板で使用されたことになる。
公式での認知
EDENを作曲した前田尚紀氏は、EDENにおけるネタとして「( ゚д゚ )彡そう!」を認知していた。当時は動画共有サイト「ニコニコ動画」の全盛期であり、EDENの動画のコメントが「( ゚д゚ )彡そう!」で埋め尽くされていたこともあり、広く認知されていたものと思われる。
2010年11月23日の筆者の投稿。特にこちらから話題を振ったわけでもなくこのような発言が出ている。
また、2013年3月21日からIIDX 20 tricoroで開催された「tricoro YELLOW ぼくらの宇宙戦争」では、劇中のセリフに「( ゚д゚ )彡そう!」の顔文字が用いられている。
IIDX 20 tricoroのイベント「ぼくらの宇宙戦争」寸劇シーン1より。博士の「イケてるワシ」という言葉をクプロが「あ、そう」と流した後に続くセリフである。
世界に翔ばたく「FURIMUKI」
2012年5月10日~12日に台湾の台北世界貿易センターで開催された「GTI Asia Taipei Expo 2012」。アミューズメント・エンターテインメントに特化した見本市で、現代に至るまで開催されている歴史あるイベントである。
この「GTI Asia Taipei Expo 2012」にはコナミのSOUND VOLTEX(初代)が出展されており、サウンドプロデューサーのDJ YOSHITAKA氏が現地でEvansを実演するというイベントが行われた。
このイベントの様子がニコニコ動画に残っており、DJ YOSHITAKA氏がプレイ途中でギャラリーの方を向いた際に、ギャラリーから「フリムキ!」という歓声が上がっている。
イントネーションから、現地のギャラリーによるものと思われ、「FURIMUKI」が海を越えた台湾でも通用していることが分かる映像史料である。
「GTI Asia Taipei Expo 2012」でEvansをプレイするDJ YOSHITAKA氏(※外部リンク 音声が流れます)。動画2:39で、ギャラリー男性の「フリムキ!」という声が聞こえる。
時代を映す鏡としての振り向き厨スレ
振り向き厨スレッドのネタは、当初「こんな振り向き厨はウザい」「ウザいので、どうにかして振り向き行為を妨害しよう」という方向性だったが、時事ネタを織り交ぜたネタも多数存在し、当時の音ゲー界隈の出来事やイベントなどの世相を反映している。
また、顔カメラなどのように、当時ネタにされていたことがそれに近い形で実現されているものもある。
振り向き厨スレpt.19より。筐体にカメラが搭載されており、FAILEDした瞬間の表情を撮影されてしまうというネタ。後にライトニングモデルの顔カメラという形で実現している(勝手に記録されることはありません)。
振り向き厨スレpt.35より。自宅でMENDES(黒)を遊びながらギャラリー界と大騒ぎしてMENDESのブレイク地帯で合唱して近所迷惑になるというネタ。現代では、公式のライブ会場でMENDESの大合唱が起こるようになった。
ケチャスレとの姉妹提携
「ケチャスレ」とは、「IIDX 11 IIDXRED」で登場した「Kecak」という楽曲に登場するキャラクターをアスキーアートにした「ケチャと愉快な仲間達」というネタスレで、振り向き厨スレッドが登場する前から存在していたが、世界観が似ていることから姉妹提携しており、後に振り向き厨スレッドに合流した。
ケチャのキャラクターがムービーに登場しているのは「LESSON 5」「DUE TOMORROW」「Kecak」「Come On」の四曲だが、「Kecak」「Come On」は削除されており現行バージョンではプレイできない。
2008年5月1日~7月26日に開催された2ちゃんねる全板人気トーナメントというイベント用に作られた大型アスキーアート。ケチャスレと振り向き厨スレのキャラクターが盛り込まれている。
IIDX 33 Sparkle Showerで待望のKECAK新曲が登場した。
振り向き厨のこれから
前述したように、現代ではインターネットサイトの閲覧デバイスが多岐にわたっており、アスキーアートが正常に表示されないケースも多いことから、アスキーアート文化は衰退している。
振り向き厨スレッドについても、20周年を迎えた現行スレがpt.61なのだが、10周年を迎えたのがpt.57であることからも分かるように、現状スレッドはほとんど進んでいないのが実情である。
だが、「筐体と振り向き厨」は音ゲーマー自体を表現したものである。音ゲーマーが存在する限り、振り向き厨もまた存在し続けるのだ。
最後に、「IIDX 32 Pinky Crush」に収録された「PopなEDEN」の曲コメントを引用して結びとしたい。
Visual / BEMANI Designers "アオニサイ"
それは… Popな Popな Popな Popな Popな Popな Popな Popな Edenみたいー!!
( ゚д゚ )彡<こんにちは!アオニサイです★
IIDX 32 Pinky Crush 公式サイト 楽曲コメント「PopなEDEN」
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