家庭用IIDX 第一期 暗黒時代
2002年、家庭用IIDXシリーズは苦境に立たされていた。
売上本数の急速な減少に伴い、家庭用開発部門は解散。家庭用6th styleを以て家庭用移植は凍結されることとなってしまったのだ。
しかし紆余曲折の末、2004年5月13日に家庭用IIDX 7th styleは発売に漕ぎ着けることができた。その裏では開発スタッフとIIDXプレイヤーの奮闘があったのである。
この時期は後に「暗黒時代」と呼ばれることになるのだが、インターネットを中心に起きていた出来事のため、文献はほとんど残っていない。だが、かつてyousk氏が作成した「BEAT2DX-FOREVER ~家庭用 beatmania IIDX 続編プロジェクトまとめページ~」に当時の様子が克明に記録されている(リンク先はミラーサイト)。
この記事に書かれている内容の大部分はyousk氏のまとめ記事を参考にしたものであるが、IIDXの歴史を語る上で避けては通れない出来事であることから、改めて振り返っていきたいと思う。
売上が低迷していた家庭用5th style
家庭用6th styleがダメなら次は無い
6th styleまでの家庭用ビートマニアを開発していたのはコナミ子会社の「KCEジャパン」。元々は、同社に所属していた小島秀夫氏が稼働前のビートマニア1st MIXを見て「家庭用をつくらせてください」と上層部に懇願したことから、「KCEジャパン」が移植に携わることになったいきさつがある(当時の詳しい話は「PS1版ビートマニアの制作発表 家庭用移植に挑んだ男たち」を参照)。
家庭用ビートマニアは、同社の藤後浩之氏(以下、Togo氏)を中心に、Togo氏がスカウトした角田利之氏(以下、L.E.D.氏)らと共に、アーケード版の移植や家庭用オリジナル作品の制作を行っていた。
家庭用ビートマニアは当初ミリオンヒットを記録し、ビートマニアの存在をゲームセンターに行かない人たちにも広めていった。その後も「KCEジャパン」は、家庭用IIDXの移植を行っていたが売上は急速に落ち込み、家庭用IIDX 5th styleは発売できるギリギリのラインになってしまったという。
この事実が明らかになったのは、2002年6月16日に新宿のコナミカードゲームセンターで開催された「IIDXアーケードスタイルコントローラ体験会」の席上だった。当時この体験会に参加したプレイヤーが開発スタッフから直接聞いた話として、2ちゃんねるに書き込んでいる。
そうなんだよね、5thの売り上げ本数的は結構スレスレだったみたい。今回駄目だったら7thはあぼーんするとのこと。
>>5鍵マンセーな方達へ
CS版beatmaniaシリーズ総合Part23
IIIの移植についても聞いたんだけど、BMで一番人気があるIIDXでもギリギリなので当分は見込み無しだって。とりあえず、IIDXの方が売れないとお話にならないかも。
友人が行ってて報告くれますた。ガイシュツだけど、家庭用については
CS版beatmaniaシリーズ総合Part23
・継続については売り上げ5万本以上が条件
・開発部署が縮小されちまった
ということで相当ピンチみたい…(;´д⊂
音ゲーの続編を作ることの難しさ
ミリオンタイトルだった家庭用ビートマニアシリーズは、なぜここまで売れなくなってしまったのだろうか?
PS1時代のSCEは一般人にゲーム文化を浸透させるためにカジュアルゲームを強く推していた。そんなSCEの思惑とも合致し、家庭用ビートマニアは雑誌記事やTVCM等で大きく扱われていた。パラッパラッパーがヒットし、リズムゲーム自体の目新しさもあったため、ゲームマニア以外のPS1ユーザーが購入していたのである。
しかし、年月が流れるにつれ音楽ゲームというジャンルは目新しいものではなくなっていった。また、音楽ゲームというジャンルは、続編が出てもゲームのルールはほとんど変化せず、収録曲が刷新されるだけである。メディアが取り上げるには新奇性が乏しく、新作を出しても活字媒体では「新曲が〇〇曲収録されているぞ」程度しか紹介しようがない。
かつてはゲーム雑誌の数ページを割いて取り上げられていた家庭用ビートマニアも、続編がリリースされるにつれて、1ページにも満たない誌面の一部で扱われる程度になっていった。
特にPS1のビートマニアの多くはアペンドディスク方式を採用しており、5thMIXあたりになると、ファミ通等では「新作ソフトではなくバージョンアップキット扱い」としてクロスレビューにも載らない(欄外に紹介文のみ掲載される)ようになってしまう。
このような背景から、メディアの注目度は低下し、続編の発売を認知しているのが熱心なユーザーだけになってしまった。本来、音楽ゲームは過去作を知らなくても始めやすいジャンルではあるのだが、メディアでの露出度が下がったことで売上が激減していったのであろう。
家庭用6th styleと不吉な影
2002年7月18日に、家庭用IIDX 6th styleが発売された。新モードとして、ムービーを全画面表示しながら半透明のレーンでプレイできる「ミュージッククリップモード」や、当時のランカーによるプレイを動画で見られる「達人ムービー」を実装。盛り沢山の内容となっていた。
一定条件を満たすと解禁される「達人ムービーモード」。当時はYouTubeのような動画共有サイトは無く(YouTubeの日本語版サービス開始は2007年)、有名プレイヤーのプレイを手元付きの動画で見られるという要素はかなりの需要があった。なお、収録に使われている筐体はなぜかbeatmaniaII筐体(日本では未稼働)である。
「売上が5万本に届かなければ家庭用シリーズは継続できない」という不安要素はあったものの、(この出来なら最低売上ラインはクリアできたのではないか?)とも思える渾身の仕上がり。だが、発売からしばらくして家庭用IIDXユーザーは絶望に打ちひしがれることになる。
2002年8月30日、6th styleの発売から1ヵ月が経ち、コナミのメールマガジン「GOLDNET」に意味深な文章が掲載された。
というわけで、「beatmania IIDX 6th style new songs collection」の紹介・攻略・裏技情報もここまで。
次回作は・・・ちょっとわからないけれど、たぶん、いつか会えるその日までまたごきげんよう!
(コナミJPN WEST)
GOLDNET 6th style攻略ページ
追い討ちをかけるように、新たな悲報が舞い込む。コナミに在籍していたボーカリスト新谷さなえ氏(以下、Sana氏)のホームページで、L.E.D.氏がビートマニアの開発から離れたという事実が判明したのである。
from L.E.D.
「beatmaniaプロジェクトから離れてしまって久しいですが、また機会があれば是非参加したいと思っています。その時はまたボーカルをSanaさんにお願いしたいと思ってますんで、宜しくお願いします!」
Sana氏 公式サイト
L.E.D.氏と言えば、Togo氏と共に家庭用ビートマニアシリーズにオリジナル曲を提供してきた主要人物である。そんなL.E.D.氏がビートマニアの開発現場から離れてしまったのは、単なる社内異動によるものなのか?
不穏な兆しが次々と現れ、当時のプレイヤーは次回作が本当に発売されないのではないかという不安にさいなまれることになったのである。
絶望と希望
BEAT2DX-FOREVER
家庭用IIDXの続報が無いまま2002年が終わりを迎えた。
これまで、家庭用IIDXの新作はアーケード版の次バージョンが稼働する前後にリリースされてきた(6th styleは数ヵ月遅れた)。しかし、アーケード版は既に8th styleが稼働して数ヶ月が経っているにもかかわらず、未だに家庭用7th styleの制作すら発表されていない状態が続いていた。
当時のIIDXプレイヤーの中には、毎週ゲーム雑誌の新作カレンダーをチェックして「ビートマニアIIDX 7th style」の文字を探していた方も少なからずいたのではないだろうか。
何の動きも無いまま月日は流れ、2003年3月8日、2ちゃんねるに絶望的な内容が書き込まれた。
6thstyleの説明書にインターネットランキングのパスワードのサンプル画像があるが6th以外はBEMANI-2DX4THとかになっているのに6thだけBEAT2DX-FOREVERなんだね。ちと気になった。
CSbeatmaniaシリーズ総合Part66
家庭用6th style説明書より。家庭用IIDXの説明書には毎作エキスパートモードの紹介写真にダミーのパスワードが表示されているのだが、5th styleまでは「BEMANI-2DX〇TH」だったにもかかわらず、6th styleでは「BEAT2DX-FOREVER」になっていた。
「BEAT2DX-FOREVER」
シリーズ終了を暗示するメッセージが6th styleの取扱説明書に仕込まれていたという事実にプレイヤー達が気付いたのは、6th styleが発売してからおよそ7ヶ月後だったのである。
これまで半信半疑だったプレイヤーも、この隠しメッセージで家庭用新作の発売は絶望的であることを確信した。それと同時に、「要望を出そう」などの能動的にコナミに働きかけようというする声も現れ始めた。
ちょーさん:『6th style』の発売から約1年経った2003年の春頃から、ユーザーの間で「もしかして家庭用の『7th style』は出ないのではないか」という声が出始めましていました。
電撃オンライン 『beatmania IIDX 7th style』開発秘話
「俺はこのゲームを作りたいんだ!」
一方、コナミ社内にも熱心なIIDXプレイヤーが潜伏していた。
KCE大阪で家庭用スポーツゲーム等のディレクターを務めていた吉岡敏夫氏である。吉岡氏は同じチームで楽曲を担当していた佐藤直之氏(以下、猫叉Master氏)と仲が良く、昼食帰りにゲームセンターで見かけたIIDXをプレイした際、猫叉Master氏に「このゲームを作りたいんだ」と語っていたという。
猫叉Master氏:昼飯食べに行く帰り道に、ゲームセンターの店舗の横にバーンとIIDXがはみ出て置いてあって、僕はその頃ビートマニアっていうのがあるのは知ってたんですけど、ちゃんと見たことなくて(音楽ゲームなんだー)と思って。
猫叉Master氏:(吉岡氏が)「これ俺うまいんだよ」って言うから、「ちょっとやってよ」って言ったらなんか物凄くうまくて、ちょっと正直引くくらいバァーーッって。すごいなぁ…と。
猫叉Master氏:で、やり終わってからの会社戻る途中で話聞いてると、「俺はこれがやりたいんだ。作りたいんだ!」って。その頃からずっと言ってたんで。すごい強い意志を持ってて。夢がかなったのかな。
L.E.D.氏:今もうバリバリ家庭用のディレクターで(家庭用IIDX14 GOLD当時)
電人K発売記念 L.E.D.トークセッション vol.4 猫叉Masterより書き起こし
続編制作プロジェクト始動
【試練1】1,000人メール
説明書に仕込まれていた隠しメッセージが発見されてから約半月後の2003年3月29日、それはコナミのメールマガジンにひっそりと書かれていた。
「beatmaniaIIDXのアケコンが結構前に届いたけど、次回作がなかなかでなくてちょっとさみしいです。」
→様々なゲームの続編希望メールが時々コナミスタイルに寄せられます。凄い反響があればコナミスタイルがみなさんの要望をかなえてあげられるんですが、でもゲームをつくるとなるtと数万人レベルのみなさんの協力が必要なのです。
続編、1年待っても絶対購入するというファンの方がどれだけいるのでしょう。とりあえず来週までに1000人のファンから続編制作希望メールを受け取れば、カスタムファクトリーで新企画として一度考えてみたいと思います。それが集まれば次はアンケートでファンの声を集める。そしてさあIIDXファンのみなさん!!メールの件名に IIDX続編希望 と書いて、〇△□@konamistyle.comまでメールです。1人1通まで。期限は4月2日です。
IIDXファンのみなさんがちゃんとメルマガ読んでいれば1000は軽いはずです。
コナミスタイル メールマガジン
コナミのオンラインショップ「コナミスタイル」では、「カスタムファクトリー」というグッズの受注生産企画を開催していた。
主に、ビーマニシリーズやときめきメモリアルのファングッズを制作することを想定した企画だったが、この仕組みを使ってゲームソフトを制作しようと書かれていたのである。
「約5日間で1,000通の続編希望メールが届けば続編企画を考えてみる(作るとは言っていない)」というこの企画。しかも、「1,000人メール」について触れられていたのはメールマガジンの後半であり、メールマガジンを最後の方まで読まないと見つけることができないようになっていた。
だが、2ちゃんねるを中心にこの情報は拡散され、目標をクリアすることができた。実際に送られた続編要望メールは約2,000通にも及んだという。
この「1,000人メール」は、カスタムファクトリーでの新作ソフトの受注生産という前例のない困難な企画を立ち上げるに値する熱量がプレイヤー側にあるか見極めるためのものだったのだろう。
このプロジェクトを担当したコナミスタイルグループの「ちょーさん」は、後に電撃オンラインで次のように語っている。
ちょーさん:コナミスタイルではそれ以前に、『IIDX』のキャラクターグッズとしてカレンダーなどを発売していまして、ユーザーの雰囲気が若干盛り上がっていたんです。その関係で、ソフトを作れないかという要望が届きまして、こちらとしてはソフトも要望がたくさんあれば検討させて頂きますというところが始まりでした。
ちょーさん:それで最初に、メールマガジンで『IIDX』の続編を希望する方はメールを送ってください、1,000人以上集まったら前向きに検討させていただきます、という告知を出したんですね。そうしたら、1,000人のところに1週間で2,000人ほどからメールが届きまして、多くのユーザーが希望を出しているんだなと痛感しました。それで、コナミスタイルでさまざまな部署に『IIDX』作ってくださいよとお願いをする活動を始めたわけです。
電撃オンライン 『beatmania IIDX 7th style』開発秘話
ところが、その後家庭用7th styleの続報はパッタリと途絶えてしまったのである。
企画が進んでいるのか頓挫してしまったのかも分からず悶々とするプレイヤー達。その裏では、カスタムファクトリー担当者による必死の交渉が行われていたのである。
――「1,000人メール」の後、メルマガでは情報がぱったりと途絶えましたよね?
ちょーさん:実際にプロジェクトが立ち上がる2003年9月までは、まったく情報が出せなかった期間でした。ユーザーには辛い期間だったと思いますが、実際その間はいろいろな部署に掛け合っては、却下されている状況でした。
電撃オンライン 『beatmania IIDX 7th style』開発秘話
ちょーさん:一番辛かったのは1,000人メールを集めた後、商品化が決定するまでの半年間です。本当にどこか制作を引き受けてくれるのだろうかと。掛け合ってはいるけどなしのつぶてで、暗闇に石を投げている感じで、実感がわかないんですよ。それにも関わらず、メルマガであれだけ言ってたのにやってくれないというのはどういうことかと、ユーザーからは厳しいメールが毎日くるわけです。ただ、「現在調整中ですよ」とか気をもたし、本当にプロジェクトが立ち上げられないとわかったときに、みなさんに「やっぱりできませんでした」とお伝えするのはあまりにも惨いので、ユーザーには状況は説明せずに社内だけで調整していました。だから、9月にスタジオが制作を受け持ってくれると聞いたときは、本当にガッツポーズでした。
電撃オンライン 『beatmania IIDX 7th style』開発秘話
【試練2】10,000人アンケート
「1,000人メール」の後、何の続報も無い日々が続く。2003年6月にはアーケード版9th styleが稼働しており、家庭用とアーケード版のリリース間隔は開くばかりであった。
こうして5ヶ月が過ぎ、2003年9月27日午前9時頃、コナミスタイルに「beatmaniaIIDX続編プロジェクト」という特設サイトが出現した。そこには、これまでコナミスタイルが水面下で活動を続けていたこと、商品化可能な目標に到達した場合は「KCEスタジオ」が制作を担当することが書かれていた。
このプロジェクトを発表したということは、今回、制作を担当してくれる制作会社が決定したということは言うまでもありません。今回のbeatmaniaIIDX続編プロジェクトの商品化が決定した場合、制作を担当してくれる会社は、ポップンミュージックシリーズや実況パワフルプロ野球シリーズなどの名作ゲームソフトを次々と世に送り出してきたKonami Computer Entertainment Studiosです!
beatmaniaIIDX続編プロジェクト特設サイト
カスタムファクトリー担当者は、受注生産でリスクの少ない企画であることをアピールして回っていたが、制作を引き受けてくれる部署はなかなか見つからなかった。そんな中、「コナミ社内でIIDXが好きだという人物」の力添えがあり、「KCEスタジオ」が制作を担当してくれることになったという。
――今回、スタジオが制作を決定された理由はどのあたりにあったんでしょう?
ちょーさん:こちらでは、カスタムファクトリーで予約を集めてから商品を作るということでリスクが少なく、チャレンジできますよ、という話を各所に提案していたんですね。それに乗っていただくことができたと。また、社内でも『IIDX』が好きという方に推していただけて。それがようやく実を結んだのが2003年9月になります。
電撃オンライン 『beatmania IIDX 7th style』開発秘話
L.E.D.氏:ビートマニアの家庭用プロジェクトが止まっていて、それがある男の手によって復活するわけですが…
L.E.D.氏:カスタムファクトリーで「ユーザーさんの支持を得て」っていう、それ以前の大元。今のIIDXディレクターをやっている吉岡という者が。(家庭用IIDX14 GOLD当時)
電人K発売記念 L.E.D.トークセッション vol.4 猫叉Masterより書き起こし
プロジェクトは2つのステップが存在していた。まずは、特設サイトのアンケートに1か月間で10,000人以上が回答することが条件。そのアンケート結果により商品の仕様と目標予約数が決定され、規定目標数の予約数に達した場合に商品化が決定するという流れである。
続編プロジェクト始動を伝えるコナミのリーフレット。10,000人のアンケートが集まらない場合はプロジェクトが中止になる可能性があると書かれている。
有志が作ったといわれる告知用のポスター。文章は、特設サイトに書かれていたものを使用している。
アンケートでは「家庭用オリジナル曲が欲しいか」「オリジナルモードは欲しいか」「アーケード版の楽曲だけ収録する最低限の内容で構わないか」等の商品仕様に関する質問に回答するようになっていた。恐らく、オリジナル要素を実装するほど価格や予約ノルマが高くなるという仕組みになっていたのだろう。
ちょーさん:今回の『7th style』は、希望者のために作るというカスタムファクトリーの考え方がありました。アンケート結果によれば上級者の方が多かったため、『6th style』にあったドリルモードを排して他の点に力を入れることになりました。
ちょーさん:それから、制作期間を短くすることで、商品化するための目標本数を少なくした方がいいだろう、という考え方をさせていただきました。不要な部分は割愛し、商品化することを第一目標に、できるだけ販売目標設定を小さくすることを最重要視しています。
電撃オンライン 『beatmania IIDX 7th style』開発秘話
特設サイトでは定期的にアンケート回答者数が更新された。開始当初は一気に5,000件程度の回答が集まったものの、その後は伸びが鈍化。当時のプレイヤーは、家庭用DDRスレッドに協力を仰いだり、有志が作ったポスターをゲームセンターに貼ってもらうように頼み込んだり、応援Flashを公開するなどあらゆる手段を駆使してで回答者を増やしていった。
有志のFLASH職人が制作した応援動画。ジオシティーズがサービス終了となり、掲載元のサイトは消滅している。応援FLASHは他にも多数存在していたが、ここでは筆者が探すことができた2作品を紹介する。
Flashとはかつて存在した動画等のコンテンツを開発・公開するための規格である。日本では2000年代にネットを中心に数多くの動画・ゲームが公開され「Flash黄金時代」などと呼ばれている。
こうして、「10,000人アンケート」は期限ギリギリでクリア。プロジェクトは次のステップに進むことになった。
特設サイトで発表されたアンケート回答者数の推移をグラフ化したもの。序盤で家庭用IIDXユーザーからの回答が一気に集まり、その後は有志の努力によって徐々に回答者が増えていった。
【試練3】予約目標20,000人─最後の壁はあまりにも高く
「10,000人アンケート」を達成した1ヶ月後の2003年11月27日、アンケートを踏まえた商品仕様と予約目標数が公開された。
収録曲数は旧曲を含め80曲以上、家庭用オリジナル無し、モードは段位認定・トレーニング等の最低限のもの+α、価格は大方の予想より安い6,980円に決定。しかし、予約本数は20,000本という高い目標が提示された。
アンケート回答者を10,000人集めるのもギリギリだったというのに、その2倍の予約目標が提示されたわけである。しかも期限は12月24日、つまり前回より短期間で2倍の目標を達成させることが求められたのである。
当初、特設サイトの収録予定曲リストには、版権曲の「Never Look Back」と「The Sound Of Goodbye」が含まれていなかった。アーケード版でも7th styleのみ収録されていた楽曲であり、収録は難しいと考えられていたがスタッフの努力で収録に漕ぎ着けることができた。
予約数20,000本という目標は高く、定期的に更新される中間発表から分析すると、このままのペースでは目標達成は難しいことは明らかだった。
ところが期限直前の12月19日以降、予約数の増加ペースが上向き始めた。プレイヤーの中には複数予約する勇者がいたのである。目標達成の可能性が見え始め、プレイヤー達は祈るような思いで特設サイトをチェックしていた。
特設サイトで予約本数を示していたバナー。商品化決定後も予約を受付していた。
特設サイトで発表された予約者数の推移をグラフ化したもの。ただ回答すればよいアンケートと異なり、予約数の伸びは鈍化している。なお、12/24の締切時点での本数は特設サイトで公表されていないため「不明」としている。
そして、12月25日 午前9時51分、特設サイトで「STEP2クリア」が報じられた。家庭用IIDX 7th styleの制作が決定した瞬間である。
ところで、上の推移グラフをよく見ると一つの疑問が湧く。
12月19日以降に増加ペースが上向いたものの、仮にこのラストスパートの勢いが12月24日まで維持できていたとしても、20,000本にはギリギリ届かない計算になるのである。
特設サイトでは最終的な予約本数は非公開で「STEP2クリア」とだけ発表している。
また、後日掲載された電撃オンラインのインタビューでも「10,000人アンケート」については「1万件に達成した」と明言しているが、「20,000本の予約」については「とりあえず何とか開発が始められるというところまで、2003年末の時点でいくことができたんです。」と表現をぼかしている。
そして、以下のようにも語っている。
――カスタムファクトリーの商品化は、ギリギリまで商品化実現までの必要予約数を絞るように感じます。
ちょーさん:そうですね。本当にギリギリのラインで商品化することを考えています。最終的に在庫リスクがあるとしても、いいものを作ればユーザーに買ってもらえるだろうという理念でやってますので。予約数が若干足らなくても作る場合もあります。
電撃オンライン 『beatmania IIDX 7th style』開発秘話
もしかすると、予約数20,000本は惜しくも達成できなかったのかも知れない。そして、わずかな未達分の埋め合わせをしたのは、コナミスタイル担当者のちょーさん・IIDXerの吉岡ディレクターそして家庭用IIDXプレイヤー達の熱量だったのかも知れない。
新生CSスタッフ結成
家庭用7th styleに仕込まれたサプライズ
こうして、家庭用IIDX 7th styleの発売が決定した。ディレクターは吉岡氏が担うことになり、予定通り2004年5月13日に発売された。
前作から22ヶ月という長いブランクを経てようやく発売された家庭用7th style。アーケード版は既に10th styleが稼働していた。
家庭用IIDX 7th styleを起動すると表示されるメッセージ。多くのプレイヤーと開発スタッフの尽力により奇跡的な復活を遂げた瞬間である。
家庭用7th styleには、当初の発表に無かったいくつかのサプライズ要素が盛り込まれている。
開発が決定した直後の2004年1月に、プレイヤーからの投票で8th styleから一曲だけ先行収録するという企画が実施されたのである。
当時、8th styleで圧倒的な人気を誇ったのは「murmur twins」で、投票を行えばまず間違いなく同曲が選ばれるはずであったが、8thの看板曲が先行収録されるとは考えにくく、何らかの力が働いて別の曲が収録されるのではと穿った見方をするプレイヤーもいたのだが、先行収録されたのは大方の予想通り「murmur twins」だった。
更に、オリジナル要素として「マスターズモード」が搭載された。
これはグルーヴゲージ持越しで本作の収録曲88曲(murmur twinsを除く)を好きな順番でクリアしていくモードである。
曲をクリアするごとにグルーヴゲージの最大値を伸ばすことができ(最大198%。同時にいわゆる「30%補正」も「70%補正」まで伸びる)、途中で非常時の全回復アイテムも入手できることから、LIGHT7(現在のNORMAL譜面)であれば初心者でも完走できる仕様になっている。
そして、88曲目をクリアすると最終ステージに9th styleからの先行収録曲「Abyss-The Heavens Remix-」が登場する。この楽曲の存在は発売日まで完全に隠されていた。
しかも、9th styleでも特に人気の高かった楽曲の先行収録だったことから、まさかの90曲収録というサプライズに当時のプレイヤーは歓喜したのである。
このようなサプライズ要素を実装した意図について、公式サイトでは次のようにコメントしている。
飛躍的にスペックアップした9th styleの楽曲をどこまで再現できるか全くグレーでしたが、MASTER'S MODEのボス曲としてふさわしく、また7th styleの移植を望んでくれたユーザーを驚かせたいのでできれば!ぜひ!なにがなんでも!とサウンド担当者に無理をいって移植してもらいました。
この曲を最終曲にできたことで、MASTER'S MODEもモードとしてうまくまとまったと思います。その結果曲を解禁させるのが大変になりましたが、みなさんぜひ頑張ってプレイしてください。
旧曲画面紹介にAbyssと.59が掲載された時からひそかに期待し続けていた方、おめでとうございました。
家庭用IIDX 7th style公式
再集結するスタッフ達
家庭用IIDX 7th styleが無事発売され、吉岡ディレクターはかつて家庭用IIDXのサウンドディレクターを担っていたTogo氏を開発スタッフに招き入れ、家庭用IIDX 8th styleの開発に取り掛かった。そしてTogo氏は、ビートマニアの開発から離れていたL.E.D.氏を呼び戻す。
L.E.D.氏:家庭用ビートマニア(IIDX)の開発が一回終わって、復活した時の7th styleは自分が家庭用のIIDXでほぼ唯一関わってないんですよ。部署が違うんで。それで8thからスタジオ(六本木KCEスタジオ)に移って。
>L.E.D.氏:Togoさん…尊敬の念を込めてTogoシェフとお呼びしてるんですけど、シェフが先にスタジオにいて「IIDX、また始まるから来い!」と。「じゃあ行きます!」と言ってスタジオの方に行ったわけ。
電人K発売記念 L.E.D.トークセッション vol.4 猫叉Masterより書き起こし
家庭用IIDXの制作現場に復帰したL.E.D.氏が最初に手掛けた楽曲は「エブリデイ・ラブリデイ-L.E.D.STYLE MIX-」と「NEBULA GRASPER」である。
beatmania IIDXの開発が再開し、私も再び開発スタッフとして参加できるということでやっぱり復帰第一作目はPSYCHEDELIC TRANCEで行こう!と思い立ち、出来たのがこの、NEBULA GRASPERです。
家庭用IIDX 8th style公式 NEW SONGS "NEBULA GRASPER"
そして 伝説が はじまった!
こうして、8th style以降の家庭用IIDXは順調に発売されることになった。以後、家庭用IIDXはIIDX 16 EMPRESS+PREMIUM BESTまでディレクター吉岡氏の下で開発されることになる(CS EMP+BESTのディレクターは吉岡氏・L.E.D.氏の二名体制)。
猫叉Master氏から「(IIDXが)引くほど上手い」と言われるほどのIIDXerだった吉岡氏が率いる通称「CSスタッフ」は、7th style以降も数々のサプライズ要素を仕込むことでIIDX家庭用プレイヤーを驚かせることなる。
CSスタッフ伝説
全盛期のイチロー伝説 改変コピペ
- ・「80曲以上収録」の謳い文句で90曲以上収録は当たり前、Another差分含め100曲収録も
- ・9th判定問題、10th段位SP八段全穴化問題、CS開発終了の状況から1部署で逆転
- ・新作発売日の音ゲ板スレッド一覧でCSスレが三本に見える
- ・発売の無い前々夜祭でも2スレ消費
- ・CSスレ住人の妄想をスルーしながらことごとく実現
- ・段位認定の深い位置で新たな2000ノーツ譜面も搭載してた
- ・新作を発売しただけで伯爵が発狂した
- ・音ゲー板のCSスレに2chの祭りレーダーが反応してしまうので発売日は警戒されていた
- ・あまりに売れるのでサガワの荷物の半数がCS弐寺だった時期も
- ・フルパワー発揮すると移植作品ではなく完全新作になってしまうので力をセーブしてた
- ・CSスタッフが作った7thを続編制作プロジェクトで見ていたCSスレ住人がお礼をアンケートに書こうとしたら、すでにソフト内に返信がしてあって驚いたそうだ
- ・CSスタッフは本気を出した事がない
- ・新作情報発表で地殻変動を起こせるのはCSスタッフくらい
- ・CSスタッフが退職したら弐寺終了
- ・CSスタッフが新作を発売すると時間軸がずれる
- ・弐寺のユーザーに神追加要素を約束
- ・昔は家庭用新曲全曲を隠し要素扱いにしていた
- ・やめた理由は隠し要素が多すぎるとCSスタッフのクオリティで失禁者続出するから
- ・暗黒時代からbemaniシリーズの旗艦にまで復活できるのはCSスタッフくらい
- ・選曲眼がよすぎるせいかCSスレ住人の心の中まで見える
- ・公式でCSスタッフが発売日発表するだけでカウントダウンが始まる
- ・CSスタッフのスコア募集企画でACのインカムが伸びる
- ・曲中HS変更は、AC版ではDDまで実装されていなかったことにまだ気づいていないCS弐寺erも多い
- ・CSスタッフは完璧に仕込んだはずの完全隠しが簡単にバレてしまうと落ち込んで「?」の更新を滞ってしまう
- ・じつはAC作品はCS作品のベータ版
- ・CSスタッフが発売を発表した時点で神超え作品認定でいいだろ
- ・CSスタッフが家庭用に独自実装したシステムを、ACスタッフが新作に導入すると褒められる
- ・発売記念イベントは「完全隠し?ヒントだけ教えてやるよ。あとは自分で考えな」という暗号
- ・CSスタッフはユーザーの期待に応えようとして、ユーザーの期待を超えてしまったのは有名
- ・CS7th発売日午前0時のキター祭りで家ゲー板のサーバー轟沈したのはあまりにも有名
- ・CSスタッフは、いつもゲーセンで自分のスコアデータが当選して欲しいと願う少年達のスコアデータをほぼ全部収録してあげたことがある
多くの人々の力を結集し、22ヶ月に亘る「暗黒時代」は幕を閉じた。そして、家庭用IIDXは更なるパワーアップを遂げ、黄金時代を迎えることとなった。
私には見えるのだ…
彼らはまだ知らなかった。遠い将来、この暗黒時代などとは比べ物にならない、光すら届かぬ真の闇が待ち受けていることを。
この戦いが、来るべき災厄に抗うための通過儀礼に過ぎないことを。
FOREVERは、再びやって来る…
感想・情報等は下記フォームや、X(Twitter)のリプライ及びDMでも投稿可能です。特に下記の情報を探しています。
- 初代五鍵や初代IIDXのロケテ版を目撃orプレイした方
- ビーマニ関連を扱った一般雑誌・テレビ番組等をご存知の方