ビーマニポケット登場!
携帯機でどこでもビーマニ
1998年12月、コナミは電子ゲーム版ビートマニア「ビーマニ・ポケット」を発売した。当時はポケットに入る程度の小型電子ゲームがブームだったのである。
そして、1999年の前半にかけて、ゲームボーイやワンダースワンといった携帯ゲーム機にもビートマニアが移植された。今回は、携帯用に特化したビーマニシリーズについて見ていこう。
小型電子ゲームのブーム到来
ビーマニ・ポケットが制作された背景を知るには、当時の小型電子ゲームブームを理解しておく必要がある。
1996年にゲームテック社等から発売された「テトリン55」等のいわゆる「ミニテトリス」が学生の間で大ブームとなった。これはキーホルダー型の小型ゲームで、カバンに吊り下げて持ち歩き手軽にテトリスで遊べるというものだった。
ゲームテック社テトリス・ミニ公式サイトより。現在は公式ライセンスを取得して販売されている。
ミニテトリスのヒットを受けて、様々な小型電子ゲームが登場するようになる。中でも1996年11月23日にバンダイから発売された「たまごっち」は社会現象になり、学生だけでなく大人まで人気が波及した。
バンダイのたまごっち公式サイトより。様々なバージョンが発売され、1998年頃までブームが続いた。
「たまごっちブーム」は女子高生を中心に盛り上がっていったが、男児をターゲットにした「戦うたまごっち」という位置づけで1997年6月26日に発売されたのが「デジタルモンスター」である。こちらは小中学生を中心に、人気に火が付いていった。
バンダイ公式のデジモンウェブに掲載されている初代デジモンの写真。当初はあまり売れなかったが、シリーズを重ねるごとに徐々に人気が高まっていったという。
このように、1996年から1999年にかけて小型電子ゲームが大流行しており、当時大ヒットしたビートマニアが小型電子ゲーム化されるのはごく自然な流れであった。
ホットドッグプレス 1998年1月25日号には小型電子ゲームブームに関する記事が掲載されている。競走馬や猫の育成ゲームなど各社から様々なゲームが発売されていたことが分かる。
ビーマニ・ポケット登場
1998年12月23日に発売された、液晶画面付きの小型ゲーム「ビートマニア・ポケット」。収録曲は6曲と少ないものの、専用コントローラーを購入しなくても手軽に五つの鍵盤とターンテーブルで遊べるという利点がある。
GameWalker 1998年12月号でビートマニア・ポケットが紹介されている。「5曲収録」と書かれているが実際は6曲収録されている。初代ビートマニア・ポケットはサイズが若干大きいのが特徴。
余談だが、初代ビートマニア・ポケットの正式名称については「ビートマニア」「ビートマニア・ポケット」と諸説あるが、当時の紹介記事に「ビートマニア・ポケット」と明記されており、初代から「ポケット」が付いた名称だったと考えてよいだろう。
週刊ファミ通1999年1月1日号には「ビートマニア・ポケット」と明記されている。2,980円は小型電子ゲーム機としては一般的な価格帯。
ビートマニア・ポケットは品薄になるほどの人気となり、1999年3月には早くも「ビートマニアポケット2」が発売される。
週刊ファミ通1999年3月5日号の「ビートマニア ポケット2」に関する記事。初代と比べて丸みを帯びて小型化されており、以後のバージョンはこのフォルムで発売される。
ビーマニポケットは他のコナミ作品やJ-POPを収録したバージョンも発売され、最終的には20種類を超えるバージョンのビーマニポケットが発売されることになる。
ハローキティや女子高生向け雑誌とのコラボバージョンも発売。コカ・コーラ社の缶コーヒー「ジョージア」とのコラボバージョンはノベルティグッズにもなっており、幅広い年齢層に訴求できる商品として扱われていることが分かる。
また、ビートマニアだけでなくDDRやポップンミュージック等、他のビーマニシリーズを模したバージョンも登場。コンソールゲーム機を所有していない非ゲーマー層にもビーマニシリーズを認知させた。
コナミLOOK16号より。コナミ作品コラボの中でも、ときメモ関連のバージョンは人気が高く入手困難であった。
ビーマニポケットシリーズ パーフェクトガイドに掲載されているビーマニポケット版DDRとpop'n。なお、この攻略本は初期に制作された8機種しか扱っておらず、パーフェクトとは言い難い。
ビーマニ・ポケット2以降のバージョンの内部回路は前期・後期に分かれている。1998年~1999年に発売された前期版ビーマニポケットはボタン電池で動作する仕様だったが、2000年以降に発売された後期版ビーマニポケットは内部の回路をリニューアルし、単4電池で動作する仕様に変更。より高音質になっている。
後期回路を採用したビーマニポケット2000のオートプレイ動画(外部サイト)。音質も素晴らしいが、IIDX版の難所をそのまま叩かせるS.O.S.の容赦ない譜面にも注目。
1999年10月に発行された公式攻略本「ビートマニアCSオールガイド」のインタビューでは、dj nagureo氏がビーマニポケットシリーズについて「本家の世界観に合わない楽曲も収録できる」と語っている。
アーケード版のビートマニアがクラブミュージックを軸にコアな方向へ向かっていくのに対して、ビーマニポケットは本家では扱わない版権曲をウリに非ゲーマー層に訴求していく役割を担っていたと考えられる。
―ポケットシリーズにはタッチされているのですか。
reo:僕の知らないところで自然増殖しているみたいで…。情報収集はしているので「あれ、携帯ゲームが出ていたのか」という感じ。
―アニメソングを集めた「アニソンミックス」が出ますよね。
reo:じつは以前、同じような企画も考えていたんです。PUFFYにキューティーハニーを歌ってもらおう、とか。でも『BM』の世界観に合わないんで、とても実現しない。その点ポケットシリーズはOKですね。
―かなりお気に入りのようですね。
reo:たとえ方は悪いかもしれませんが、よくスーパーとかで売ってる980円のテープがあるじゃないですか。有名な歌謡曲だけど、歌っている人が違う(笑)。あれにはあれで、独特のよさがあっておもしろい。ポケットも同じようなよさがあるんじゃないかな?
ビートマニアCSオールガイド
コナミLOOK15号より。他社IPとのコラボも積極的に展開された。外装やスクラッチのデザインもコラボ対象の世界観に合わせたものになっている。
なお、ビーマニポケットの種類や詳細な仕様についてはこちらのサイト(外部サイト)に網羅されている。
謎に包まれた海外の電子ゲームたち
ここで海外の電子ゲーム事情を見てみよう。この時期、日本国内でのビーマニ人気にあやかろうとしたのか、海外でも音楽ゲーム風電子ゲームが販売されていたようだ。ここではそのいくつかを紹介したい。
HipHop PUMP
韓国で発掘された「HipHop PUMP」なる電子ゲームは五鍵ビートマニアをモチーフにしているようだが、収録曲などの情報は無く、謎に包まれた存在だ。
Huh, the korean BEMANI pocket looks interesting. pic.twitter.com/qLmVKSIaNa
— ISAiAH💿 - 3 Fennec Music (@BROWNPuP_IIIDX) October 10, 2022
Twitterで発掘された韓国の「HipHop PUMP」。どう見ても五鍵ビートマニアである。
DJ CHAOS
アメリカでは「DJ CHAOS」なる電子ゲームが存在していた。鍵盤の配置やGroove Gaugeという表記からビートマニアを参考にした製品の可能性が高い。5つのレーンの右隣に幅の広いレーンが存在していることから、ターンテーブル操作にあたる要素が存在するのだろう。鍵盤の外周が黒いリング状になっているが、ここが回転するのだろうか?
DJ CHAOSのパッケージ。黒いリング状の部分はレコード盤のようにも見える。この部分がターンテーブルになっているのだろうか?
DJ CHAOSのパッケージ裏面。1999年の製品らしい。レゲエ・レイヴ・DJバトル・ブレイク(ビーツ)・ファンキージャズグルーヴなど五鍵ビートマニアと同じようなジャンルが並ぶ。
DiGiT DANCERZ
一方、イギリスでは「DiGiT DANCERZ」という電子ゲームが存在していた模様。DDRを模倣しているようだが、矢印レーンの右隣に〇印のレーンが存在しているように見える。
液晶画面の外周は、上で紹介した「DJ CHAOS」のような黒いリング状になっている。やはりここが回転するのだろうか?
DiGiT DANCERZのパッケージ。GAMZEという企業から発売されていたようだ。液晶画面にはDDRを模したアロー(矢印)の隣に〇印のレーンが存在する。画面外周のリング状パーツはDJ CHAOSに酷似しているが関係はあるのだろうか…?
このDiGiT DANCERZには「EMIミュージック」の表記があり、パッケージの右側に書かれている収録曲は版権楽曲のようだ。EMIミュージックは、かつて存在していたイギリスのレコード会社であるが、当時は日本の東芝EMIに出資していた法人である。
東芝EMIといえば、コナミと提携してコンピレーションアルバム「Dancemania」等の楽曲をビートマニアやDDRに提供していた企業である。
しかしながら、このDiGiT DANCERZにはコナミの許諾を得ている旨の表記は無く、無許可で作られたものである可能性が高い。もっとも、EMIミュージックと東芝EMIに直接的な関係は無いのだが…
DiGiT DANCERZのパッケージ裏面。EMI music publishingのシールが確認できる。
このように、海外でもビーマニシリーズの影響を受けた小型電子ゲームが存在していたようだ。しかし、その仕様や収録曲については依然として謎に包まれたままである。コナミの許諾を得ずに制作されていた可能性が高いため公式サイトも存在せず、これ以上の実態解明はできていないのが現状である。
ポケモンキッズを狙え!beatmania GB
1999年3月11日にはゲームボーイにもビートマニアが登場。当時のゲームボーイは既に旧世代の携帯ゲーム機であったが、1996年に発売された「ポケットモンスター(赤・緑)」のヒットによって勢いを取り戻していた。
このゲームボーイ版では、ポケモンブームで普及していた通信ケーブルを活用した対戦モードも存在しており、コンボをつなぐと相手側を徐々にHIDDENにすることが可能という独特の対戦ルールが採用されていた。
週刊ファミ通 1999年3月26日号より。ゲームボーイ版を手がけたのはKCEジャパンではなくKCE神戸だった。
本作は2ndMIXをベースに、ゲームボーイ版オリジナル曲も多数収録されているが、ファミ通の特集記事に掲載されたインタビューによれば、性能の低いハードでサウンド面をどう再現するか苦労したと語っている。
─ゲームボーイで音を再現するにあたって、いちばん苦労したところはどんなところでしょうか?
岩切:モード選択時などに聞こえる「ドゥザビッチョー」(そう聞こえる)というSEです。これには僕の苦労がつめこまれていますので、みなさんぜひ聞いてください。
週刊ファミ通 1999年3月26日号
さらに、このインタビューでは「収録曲を決めるにあたりゲームセンターで小学生に好きな楽曲を聞いた」というエピソードも語られている。
ゲームボーイ版ビートマニアが小学生をターゲットにしていたことが分かるエピソードである。
─アーケード版からの移植曲はどのようにして選んだのでしょうか?
岩切:いろいろな人にやってもらったり。どの曲が好きか聞いて回ったり…。ゲーセンで直接、小学生に聞いたりもしました。そのうえで自分のやりたい曲…ゴホン。何はともあれ難易度、知名度など考えて決めましたので、みなさんの満足できる選曲になっていると思います。
週刊ファミ通 1999年3月26日号
週刊ファミ通 1999年3月26日号のbeatmaniaGBの紹介記事。ゲームボーイでプレイする際の運指解説が、かなり細かく掲載されている。
操作方法は十字キーの左・上・右が1~3鍵で、BボタンとAボタンが4・5鍵。ターンテーブルはSELECTボタンとなっており、アーケード版とは大きく異なる。音質もアーケード版とは別物であり再現度は低いが、オリジナル楽曲が10曲収録されているのが魅力である。
移植度は低いものの、ポケモンブームで広く普及していたゲームボーイに移植することで、ゲームセンターに行けない低年齢層にもビートマニアの認知度を高めることを狙ったのだと思われる。
驚愕の音質!beatmania for WonderSwan
1999年4月28日にはワンダースワン版ビートマニアが発売された。前月に発売されたばかりの最新携帯ハードであるワンダースワンへの移植ということで、10年前の携帯ハードであるゲームボーイとは比べものにならないほどの再現度の高さを誇る。
なんと音声データをほぼそのまま収録しており、携帯機でありながら、AC版やPS1版と同等の音質でプレイすることができるのである。これは当時かなりのインパクトだった。
週刊ファミ通 1999年3月26日号の紹介記事。「アッと驚く隠し曲も用意」とはYEBISU MIXからの移植曲である。音質は当時の携帯ハードの水準を遥かに上回る。ターンテーブル型アタッチメントが存在するが、回転するわけではなく操作感はイマイチ。
本作は3rdMIXをベースにしているものの収録曲数は11曲で、オリジナル楽曲は無く、3rdMIXの楽曲も全曲収録できていないという欠点がある。これは音声データのサイズが非常に大きかったことが原因であろう。
本作のカートリッジは128メガビットロムという超大容量。おそらく本作のために特別に作られたものであり、ハードメーカー及びコナミの気合が伺える。参考までに、当時ワンダースワンカラー版で大容量ロムを使用していたロマサガ1でさえ32メガビットという時代である。
超大容量ロムをもってしても全曲収録はできなかったが、携帯機で高音質のビートマニアが楽しめるというのは衝撃的だった。
歴史は繰り返す─ギターヒーローポケット?
ギターヒーローとは2005年に北米で発売された音楽ゲームであり、海外の音ゲー界隈ではメジャーなシリーズである。このギターヒーローにも小型電子ゲーム版が存在していたようだ。
最初に紹介するのはケロッグのキャンペーン品の小型電子ゲーム(非売品)。プレイ動画も存在するが、動画を見る限り完成度はあまり高くないように思える。
ケロッグの景品として付属していたとされるギターヒーロー。4曲収録されていたようだ。
小型電子ゲーム版ギターヒーローの動画(外部サイト)。♪マークが中央に来たタイミングで対応するボタンを押すようだ。
次に見ていただくのは公式ライセンス品として販売された小型電子ゲーム機である。ボタンも5個に増えており、ケロッグ版と比べるとしっかりした作りになっている。好評だったようで3rd EDITIONまで発売されていたことが確認できた。
実売されていた小型電子ゲーム版ギターヒーロー。楽曲は10種類収録されていた。カラビナとしても使えるらしい。
2nd EDITIONのプレイ動画(外部サイト)。長いノーツではレーンに対応したボタンを押しながら右端のボタンを連打するらしい。
人気が出た音楽ゲームをより多くの人に認知させるために小型電子ゲームを作るという風潮は世界共通なのかもしれない。それぞれのタイトルをどのように簡略化しているのかという点でも各メーカーごとに工夫の跡が見られ、なかなか興味深い。
2021年にアメリカで発売された「Boardwalk Arcade Dance Dance Dance Revolution」。日本でも話題になったTINY ARCADEシリーズを製造しているSuper Impulse社の製品。収録曲はKeep on movin'、MAKE IT BETTER、PARANOiAの3曲。
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- 初代五鍵や初代IIDXのロケテ版を目撃orプレイした方
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