ついに花開くIIDX
一躍大人気に
1st styleから2nd styleにかけてインカム面で苦戦を強いられたIIDXシリーズは、2000年に3rd styleと4th styleをリリースする。
3rd styleでは、五鍵シリーズの影響が強かったこれまでの雰囲気を刷新し、IIDX独自の方向性を模索し始める。この路線は多くのプレイヤーに受け入れられ、「IIDXは3rd styleで人気に火が付いた」というのが定説であるが、実際はどうだったのだろうか?
今回は当時の史料を基に、この時期のIIDXについて見ていきたい。
イメージ刷新!IIDX 3rd style
2000年2月25日に稼働したIIDX 3rd styleの目玉要素は「LIGHT7モード」。LIGHT7は、現在のNORMAL譜面相当の譜面でプレイできるモードである。譜面や判定が易しくなるモードは当時の五鍵ビートマニアにも存在していたが、LIGHT7モードは純粋に譜面だけ易しくなるという特徴がある(グルーヴゲージの増減量や判定は7KEYSモードと同様)。
この仕様により、初心者でもLIGHT7モードから7KEYSモード(現在のHYPER譜面)へとスムーズにステップアップすることができる。これまでIIDXは五鍵ビートマニアを極めたプレイヤー向けと割り切ったスタンスが見受けられたが、3rd styleでは初心者向けの要素を強化している。
前作(2nd style)が概ね好評だったのでどうやってそれを越えるものをつくるかで悩みました。
今回はダブルプレイの普及とライト譜面の作成がテーマでした。
「LIGHT7なんてどーせだれもやらんやろ。」という説もありますが、DXはマニアしかやらんという評判へのささやかな抵抗です。
- LIGHT7で7KEYSの譜面でプレイ可能
- 7KEYSでLIGHT7の譜面でプレイ可能
となっているので上手い方の息抜き(?)にも良いかと思います。
IIDX 3rd style公式サイト From STAFF(KAGE氏)
そして、もう一つの目玉であるダブルプレイモードの強化である。LIGHT7譜面はDPにも対応しており、DP入門用としても活用された。更に、2ステージ保障やインターネットランキングへの対応など、中~上級者に対しても新たな遊び方を提示している。
アルカディアvol.2(2000年3月1日発売)のAOU2000特集より。DPとして遊ばれることを前提とした譜面作りを意識していたようだ。
ダブルプレイについては以下の変更があります。
- 1クレジットダブルは2ステージ保証に変更
- 元々譜面をダブるプレイを意識して作成
- インターネットランキング対応
ダブルもLIGHT7と組み合わせると入門、練習などには最適かと思います。
IIDX 3rd style公式サイト From STAFF(KAGE氏)
・ダブル・バトル・ミラー
ダブルプレイの有名な「LISU」氏のアイディアにより特別になっています。
IIDX 3rd style公式サイト HOW TO PLAY
3rd styleのカタログ(裏面)。ライトユーザーとコアユーザー両方をIIDXに取り込もうとする狙いが見て取れる(※画像提供:ゲームスポットアップル様)
オペレーター向けの3rd styleのカタログには、開発中の画面写真が掲載されている。モード選択画面や選曲画面が製品版と異なっていることが分かる貴重な史料である。
上はカタログの画面写真を拡大したもの。下は製品版のモード選択画面。開発中のモード選択画面は歯車のような背景で緑を基調としたものになっている。
上はチラシ裏面、下は製品版の3rd styleの選曲画面。カーソルの矢印やレコードのレーベル面、下部のジャンル・曲名のフォントが異なるほか、開発中の3rdではREINCARNATIONの難易度が☆6に、BPMが145になっている。
余談だが、IIDXの1st~3rdまでの楽曲の多くはBPM表記が実際より1少なくなっており、9th頃に修正されている(詳細はsacrifs氏のサイトを参照)。
ところが、今回確認された開発中の3rd styleの画面写真では、REINCARNATIONのBPMが正しく表示されていることが確認できた。つまり、3rd styleが稼働するまでの間に何らかの理由でBPM表記が1少なくなってしまったものと思われる。
五鍵路線からの決別、IIDXカラーの確立
3rd styleでは、ビジュアル面・サウンド面ともにIIDXの独自路線を確立することに成功している。前作までの選曲画面などのインターフェイスには、同時期の五鍵作品の雰囲気が感じられたが、今作はピンクを基調としたサイケデリックなインターフェイスへと変化している。
この「サイバー」を基調としたデザインは、前年に公開された映画「マトリックス」の影響を受けているとのこと。
今回は3rd style制作に入る前に見た映画「マ○○ックス」の影響が大きく、全体的にサイバーなデザインとなってます。
IIDX 3rd style公式サイト From STAFF BEDLAM氏
3rd styleのカタログ(表面)。前作に引き続きGOLI氏によるフライヤー調のキャラクターが印象的。左側のキャラクターは稼働後に届いたユーザーからのメールを採用し「士郎」と命名された。(※画像提供:ゲームスポットアップル様)
一方で、サウンド面については、前作まで収録されていた「JAM JAM REGGAE」等の五鍵曲が削除され、洋楽寄りのライセンス楽曲やピアノメインの楽曲など、これまで以上に幅広いジャンルの新曲を収録している。
楽曲の選定はdj TAKA氏が中心になって行っており、氏の人脈を駆使して今までに収録されていないようなジャンルを意欲的に開拓していく姿勢が垣間見える。
Osamu Kubotaは、オレがビートマニアの制作に入る以前から知己を得ている音楽家で、キャリアはオレより遥かに上なんだけど、友人として親しくさせてもらっている。
オーケストラやジャズテイストな楽曲の制作をメインにしていて、某人気ドラマの音楽監督を努めたりなど、その筋では結構有名な作曲家なんだ。
今回、Osamu Kubotaに提供してもらった楽曲は、ビートマニアの中で、新鮮な全く新しいジャンル開拓を計るものとして、かなり異色な存在になるはずだったんだけど、オレが彼に求めていた以上のものを出してもらって、結果的に3rd styleの方向性を象徴する1曲となった。
IIDX 3rd style公式サイト NEW SONGS INTRODUCTION "Presto"
より多くの人にプレイしてもらうためバラエティーに富んだ楽曲を扱いつつも、統一感を保つためにバージョン全体のテーマを設けるという手法も今作から行われ、将来的にはIIDXRED以降の「サブタイトルで明確なテーマを打ち出していく」という形に進化していく。このようなバージョンごとの世界観を構築する手法も3rd styleで基礎が作られたといえるだろう。
公式サイトでは、今作のテーマである「CYBER」を象徴する楽曲として「LEADING CYBER」と「Holic」の2曲が挙げられている。
今回の3rd styleのキャッチコピーである「CYBER beat NATION」という世界観を最もストレートに表現している点において双璧を成しているのが、dj TAKAの「LEADING CYBER」であり、そして、このTaQによる「Holic」の2曲なのではないでしょうか。
IIDX 3rd style公式サイト NEW SONGS INTRODUCTION "Holic"
これらの看板楽曲はいずれも高難度であり、楽曲の良さも相まって(クリアしたい)と思わせる強烈な動機付けになっている。更に「Holic」にはANOTHERバージョンが用意されており、普通のプレイヤーでは到底クリアできない高難度譜面となっている。この譜面は五鍵における「穴猿」になぞらえて「穴堀」と呼ばれ、高難度譜面を求める上級者の前に立ちはだかった。
このように、前作までの「上級者向け」というイメージを払拭しつつも、初心者から上級者まで多くのプレイヤーに触れてもらえるよう工夫された3rd styleは大人気となっていった。
IIDXの絶頂期は3rd styleなのか?
このように、IIDX独自の路線を築いた3rd styleであるが、当時を知るプレイヤーは「IIDXは3rd styleで絶頂期を迎えた」と記憶している方が多いのではないだろうか。
当時のインカム状況を知る上で貴重な史料であるランキングを掲載していた業界誌「コイン・ジャーナル」(2001年より「アミューズメント・ジャーナル」となり現在も刊行中)を調べていくと意外な結果が判明した。
アミューズメント・ジャーナルのインカムランキングは、「そのゲームを設置した店舗の売上にどの程度貢献しているか」を数値化したもの。五鍵1stMIX稼働当時から現在に至るまで同じ手法で集計されている貴重な史料だ。
アミューズメントジャーナルのインカムランキング「設置店貢献度」の推移。IIDX歴代最高得点は4th稼働直後の18.79ポイント。次点は僅差で6th稼働直後の18.69ポイントである。
2nd styleでインカムが安定したIIDXだが、3rd styleのインカムは前作並の水準で横ばいに推移し、4th稼働後に一気に跳ね上がっている。その後8thまでは3rd以上の水準を維持していることから、IIDXの絶頂期は4th styleと考えて良いだろう。
こうして、1st稼働直後の苦難の時代から奇跡的に復活を遂げたIIDXは、以後ビーマニシリーズの旗艦タイトルとして存在感を増していくことになる。
まさにABSOLUTE!4th style
IIDXのインカム面での絶頂期であり、黄金期の幕開けとなった4th style。各種システム面は前作と比べ大きな変化は無かったが、4th styleの真価はその収録曲にある。
4th styleのタイトル画面。新オプションはゲージの減少率が緩やかになる「EASY」のみ。キャッチコピーは「TRIP THE DEEP」、テーマは「HAPPY」だった。
本バージョンを象徴する楽曲dj TAKA氏の「ABSOLUTE」を筆頭に、ライセンス楽曲はワーナーミュージックの「DANCE EXPRESS Hi-speed」とタイアップして「JIVE INTO THE NIGHT」等の名曲を収録。3rd styleでユーザーに受け入れられた路線を大きく変えることなく、更にパワーアップさせた正統進化版といえる。
「ABSOLUTE」の衝撃を最初に受けたのは開発スタッフのGOLI氏だった。当時GOLI氏はタイトル画面や選曲画面等のインターフェイスを手掛けていたが、この曲を聴いてムービーの制作に初挑戦したという。
今まで、ムービーに関しては、ボタン押しのアニメや素材等で参加していただけでした。
今回も当初はその予定でしたが、この「ABSOLUTE」のフレーズがどうにも頭に残ってしまい、dj TAKAの曲を自分で一からムービー制作としてみたいと思ってしまったのです。
それでVJ GYOに無理にお願いして、やらせて頂いた次第です。
IIDX4th公式サイト From STAFF(GOLI)
当時は一般プレイヤーだったDJ TOTTO氏も、特徴的な乱打譜面が印象的だったと語っている。
クラブトラック+メロディアスな展開に衝撃を受けた曲です。IIDXでの交互押しの乱打がとても印象的で当時はひたすらプレーしましたね!
REFLEC BEAT BEMANI MUSIC FOCUSアーティストコメント(DJ TOTTO)
3rd styleから4th styleにかけてのIIDXは、純粋なクラブミュージックというジャンルにとらわれず、メロディアスな楽曲を収録していく傾向があった。
「ABSOLUTE」「Presto」などメロディーラインがハッキリしている楽曲は、クリアできるギリギリのプレイでは綺麗に弾くことはできず、更にプレイしていくことで、スコアという数字だけでなく「綺麗に演奏できた」というフィードバックがあり、上達の実感を得やすい。キー音が存在するビートマニアならではの楽しみ方をユーザーに分かりやすく提示できたという点も、IIDXが支持されるようになった理由の一つではないだろうか。
伝説の楽曲公募企画
そして、4th styleを語る上で欠かせないのは2000年6月15日~7月31日に行われた「楽曲公募企画」だろう。一般ユーザーから楽曲を公募してゲームに収録するという初の試みであり、後のSOUND VOLTEX FLOORの前身にもなっている。
IIDXシリーズ最新作において、普段ゲームを楽しんでくれているユーザーのみんなが作った曲を収録できることになりました。
DTMを趣味でやっている人や、既にビートマニアのために作った曲がある、なんていうキミは、これを機会に是非応募してみてくれないか?
楽曲としての完成型よりも、突拍子もない発想やゲームユーザーならではのゲーム的なアイデアを期待しているので、初心者の方にも十分チャンスがあるぞ。
恥ずかしがらずに、キミの才能を試してほしい。キミのセンスでIIDXに新しい風を吹かせてくれ!
IIDX3rd公式サイト From STAFF(dj TAKA)
この楽曲公募企画は3rd style稼働時期に行われており、3rd styleの公式サイトだけでなく、DTM系の雑誌にも募集記事を掲載するほど大々的なものであった。
マイコンBASICマガジン(ベーマガ)のゲームミュージックコーナーに掲載されていた募集記事。同誌はゲーム音楽のプログラミングも扱っており、古代祐三氏などの有名ゲーム作曲家を輩出している。
この公募企画にはおよそ400曲の応募が集まったようで、選考の結果4th styleに収録された作品は「Clione」と「starmine」の二曲で、作曲者はそれぞれ東京の高校生kors k氏と福岡の大学生Ryu氏だった。この二曲は他の応募曲と比べ飛び抜けて評価が高かったようで、稼働後も多くのプレイヤーにプレイされることになる。
およそ400曲の応募楽曲のなかから、見事栄光を勝ち取ったのがこの「Clione」と「starmine」。
楽曲を選んだ基準は色々悩んだけど、最終的にはその曲がどれだけ人の心をとらえるかどうかを重視した。
その点ではこの2曲が圧倒的に光っていて、リリース後も多くの方の支持が得られて、やはりこの2曲を選んでよかったなぁと思っています。
2人ともまだまだ大きな可能性を秘めていると思うので、今後どんな活躍をしてくれるか楽しみです。
IIDX4th公式サイト NEW SONGS(Clione)
Ryu☆氏:ゲームセンターに行っても,みんな「Clione」か「ABSOLUTE」ばっかりで,自分の曲はいつプレイしてもらえるんだろうって,待ってたくらいだし。
kors k氏:そんなことないでしょ。東京だとみんな「starmine」やってたよ。
4Gamer.net アルバム「Let's Do It Now!!」発売記念,kors k×Ryu☆対談インタビュー
この楽曲公募企画は4th style稼働期に再び行われたが、第1回で採用された二曲に匹敵する楽曲が無かったということで、採用者無しという結果に終わった。
残念な結果に終わってしまった、第2弾の楽曲募集でしたが、傍から見ていても選考担当者は今回の決断に到るまでに、かなり苦しんでいることが分かりました。
今回は特に、第1弾の大成功という前例があって、あの二つの素晴らしい楽曲が選考上の一種の基準となっていた、と想像できます。
そうだとすると非常に厳しい目、ではなく「耳」で持って選考を進められたに違いありません。
IIDX4th公式サイト FROM STAFFS(VJ GYO)
beatmania IIDX 3rd styleの楽曲公募、4thか5thで第2回公募があり、自分応募したのですが、
— Ryu☆ (@RyutaroNakahara) February 26, 2019
キング「Ryuのが一番良かったけど連続になるからダメ」
と言われボツに…(ちなみに第2回は合格者無しで終了)
その後リメイクして北米版DDRに収録。
タイトルは『sakura storm』#みんなのIIDXの思い出書いてけ pic.twitter.com/pUOkQrZfuO
Ryu☆氏のツイートより。実は第2回の公募でも採用基準に到達した楽曲は存在していたようだが、上記のような理由で不採用となっていた。
第1回の成功で、選考基準が厳しくなってしまったようだが、楽曲収録ありきではなく、あくまでハイクオリティな楽曲を求めるという姿勢が垣間見える。決して話題作りのための企画ではないという確固たる意志表明といえるだろう。
このように、4th styleは楽曲の質で勝負したバージョンといえる。システム面で目新しい要素は少なかったものの、音ゲーの魅力は収録曲で決まるという正攻法で歴代IIDX最高の成果を出したのである。
korsk氏、ryu*氏に続け!コナミ『beatmaniaIIDX』の楽曲募集を2年ぶりに実施
コナミは、アーケード用リズムゲーム『beatmaniaIIDX』のユーザー参加企画、「Musicianship Trial」の募集を開始した。これは、ユーザーから楽曲やボーカリストを公募し、優秀な楽曲を『beatmaniaIIDX』の次期バージョンに収録するという企画。
コナミでは2年前の『3rd style』稼動時にも同様の企画を行っており、そのときはkors k氏とryu*氏の2人がみごと優秀作品に選ばれ、「clione」と「stermine」の2曲が『4th style』に収録された。
電撃オンラインNews 2002年12月17日
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