五鍵の世代交代!bmIII登場
2000年はビートマニアシリーズにとって世代交代の一年間ともいえるだろう。
IIDXは、1st styleから続くインカムの低迷を2nd styleで何とか安定軌道に乗せることができた一方で、五鍵シリーズは基板スペックの低さに苦戦。ハードウェアを刷新して大幅にスペックアップを図ったbeatmaniaIII(以下bmIII)を開発し、活路を見出そうとする。
初代筐体、IIDX、bmIIIの三機種が稼働した時代。それぞれの機種はどのように差別化を図っていこうとしたのだろうか。今回はアーケード版五鍵シリーズについて見ていきたい。
スペック不足の初代筐体
以前の記事でも取り上げたように、初代筐体に搭載されていた基板は非常にスペックが低く、一画面に表示されるノーツの量が多くなると処理落ちを起こしてしまう。
処理落ち対策のため、ノーツの密度が限界を超えてしまう譜面については「BATTLEがプレイできない」「強制的にHI-SPEEDがかかる(一画面に表示されるノーツ量が抑制される)」等の制限をかけざるを得ない状態となっていた。
初代五鍵に搭載されていた「DJ MAIN」という基板は、五鍵1stMIXが稼働した時点で既に5年前の基板をクロックダウンさせた非常に貧弱な性能であり、クロック周波数で見るとPS1の4分の1程度であった。
beatmania自体は確かに5年前のゲームですが、載っている基板の性能ははっきり言って10年前のものなのでその当時を知っている者として、出来る事、出来ない事を見極めつつ「ハード的なスペックアップが望めなければせめてソフトの方で…」と改善可能な箇所はとにかく改善しまくって行き、という感じの制作だったなと思ってます。
THE FINAL(初代筐体版)公式サイト FROM STAFF T氏コメント
このような非常に低スペックな基板を用いた理由は、当初のビートマニアは「ゲームセンターのユーザー層を広めるためのゲーム」というライトユーザー向けの企画で、シリーズ化や内容の複雑化などは想定していなかったからであろう。
過去の記事でも述べたように、ビートマニアという企画は、当初はモニターも存在しないエレメカのようなものであった。ライトユーザーに対して訴求力のあるマシンを安価でリリースするために、初代五鍵1stMIXがギリギリ動作する程度のスペックの基板で開発されたのではないだろうか。
その証拠に、早くも3rdMIXの時点で処理落ち対策が行われており、「SKA A GO GO」「TRIBE GROOVE」の2曲はBATTLEがプレイできないようになっている。
3rdMIXから新たに登場したBATTLE PLAYは2人用モードで、1Pと2Pの両サイドに全く同じ譜面が流れてくる「対戦」を意識したモードである。元々ビートマニアの2人用モードは「一つの楽曲のパートを2人で分担して遊ぶ(DP譜面を2人で遊ぶ)」という形式だったので、1人用譜面の物量が両サイドに降ってくるような遊び方は想定していなかったのである。
5thMIXでは処理落ち問題は更に深刻化し、1人プレイ時にも支障を来すようになる。HELL SCAPERはデフォルト状態で2.0倍のハイスピがかかっており、HI-SPEEDをかけると4.0倍の譜面落下速度になる。これは、一画面中に表示されるノーツを可能な限り減らそうという狙いがあったものと思われる。
更に、5thMIXでは公式サイトでも書かれているように、BATTLEプレイを可能な限り選曲できるようにするため、処理が限界を迎えそうな場合、プレイに影響しない演出をカットする仕様が搭載されている。
(注)音声が流れます。
5thMIXでBATTLEオプション時(HI-SPEED不使用)に発生する処理落ち。2P側は放置しているために、通常BGAとmiss用BGAが繰り返し表示されるはずだが、BGAが止まってしまう。処理が重くなると、BGA→爆発・判定文字→キービームと段階的に停止していくことがわかる。
その後も、処理落ち対策は続けられ、Club MIXでは強制1.2~1.4倍ハイスピが適用される楽曲が数多く存在している。
また、BATTLEオプションが使用できない譜面も後期バージョンになるほど増えていき、初代筐体版THE FINALでは、BGAを簡略化しているにも関わらず、かなりの数の譜面がBATTLE不能曲となってしまっている。
beatmaniaIII、発売中止になる
2000年2月25日から2日間に亘って「AOU2000アミューズメントエキスポ」が開催され、コナミブースではbmIIIがお披露目された。
bmIIIは新基板「Firebeat」を採用。この基板はKEYBOARDMANIAやpop'n music4以降に搭載されているコナミの次世代を担う高性能基板であり、この基板を搭載することで、初代筐体でネックになっていた処理落ち問題は解消され、高度なエフェクター等の新機能を実装している。
また、外部記憶媒体として当時普及していたFD(フロッピーディスク)に対応しており、楽曲のスコアやクリア状況を記録することができるようになった。当時のアーケードゲームでは、プレイヤーごとの過去のプレイ履歴を記録してゲーム内容に反映させるという試みは非常に珍しく、クリア状況による隠し要素の解禁等、IIDXでは9th style以降に実装されるような要素をこの時代に搭載していた。
アルカディアvol.2(2000年3月1日発売)のAOU2000特集より。先進的な機能を備えた最新作として紹介されている。余談だが、創刊直後のアルカディアは月刊誌ではなく不定期に刊行されていた。
この時期、初代五鍵筐体はcomp2が稼働しており、版権楽曲を中心としたバージョンとして3月28日にClub MIX、5月31日にfeaturing DREAMS COME TRUEを稼働予定となっていた。
当初の予定では、初代五鍵筐体はfeaturing DREAMS COME TRUEを最後に開発終了とし、CORE REMIX以降のタイトルはbmIII専用としてリリースしていくことになっていたようだ。
実はこのAPPEND CORE REMIX、元々はbeatmania IIIの次企画という事で進められていたモノなのですが、諸般の事情によりスタンダード版でCORE REMIXを出すことになり、さらにそれをIII筐体へ... と、そういう経緯があって今の形になったのです。
CORE REMIX(bmIII版)公式サイト FROM STAFF T氏コメント
上記の「諸般の事情」とは何だったのだろうか。コナミ公式ではこれ以上のことは書かれていないが、実はbmIIIは発売中止となった作品なのである。
bmIIIは2000年3月8日に稼働することとなったのだが、これは先行販売された筐体が稼働した日であり、その後、bmIIIは正式販売はされていない。しかしながら、既に先行販売分が世に出てしまったことから、バージョンアップ等の対応は五鍵と同様にTHE FINALまで行われている。
コインジャーナル(2000年4月号)より。「3月中旬先行発売」とあるが、市場に出回っているbmIIIの筐体はこの先行販売分のみ。
初代筐体は、過去に大ヒットしたため、筐体が相当数が出回っていたが、bmIII筐体は先行販売分しか稼働していないという事情から、僅かな台数しか市場に出回っていなかった。CORE REMIX時代には「筐体を探す方が難しい」と公式で明言されている。
「beatmania IIIはゲームの内容より筐体を探す方が難しい」とも言われているらしいですが、このAPPEND CORE REMIX、 見かけたら是非ともプレイしてみて下さいね。(^_^)
CORE REMIX(bmIII版)公式サイト FROM STAFF T氏コメント
AOU2000で完成品がお披露目されていたにも関わらず、正式発売中止となってしまった経緯については、筐体の注文が集まらなかったのであろうと推察される。
コインジャーナル(2000年4月号)のAOU2000来場者アンケート。来場者が出展作品の中から投票した結果だが、bmIIIは19位と決して高くはない順位であった。
当時はBEMANIシリーズとして初代筐体・IIDX・pop'n・DDR・DDR SOLO・ギターフリークス・ドラムマニア・キーボードマニア・ポップンステージ等、多機種展開を行っている中で、更に新筐体を導入することは、設置場所や資金面でハードルが高かったものと思われる。
また、ビートマニアシリーズだけで見ても、稼働当初に低迷したIIDXが1年経過してやっと安定軌道に乗ったタイミングであり、続編としてbmIIIを購入することに躊躇する店舗も多かったのではないかと思われる。
コインジャーナル(2000年5月号)のインカムランキング。稼働後初登場したbmIIIは19位。翌月はランキング圏外となってしまった。
DJ MAIN基板の呪縛、悲劇のbmIII
bmIIIが発売中止となったことから、五鍵作品はCORE REMIX以降も引続き初代筐体で動作する内容で開発されることとなった。結果として、bmIIIは高スペックの基板を搭載しながらも、初代筐体のスペックに準じた内容を移植するだけになってしまったのである。
各バージョンの制作予算や人員等は初代筐体版・bmIII版で1機種分として扱われており、初代筐体版が完成した後の残りの期間でbmIII版が開発されていたようだ。bmIIIシリーズの公式サイトでは、スタッフが製作期間の短さについて嘆いている。
beatmania CORE REMIXの開発終了と同時に始まったAPPEND CORE REMIXの作業ですが、作業期間はマジで1ヶ月でした!
CORE REMIX(bmIII版)公式サイト FROM STAFF Y.S氏コメント
今回もコアリミ同様、APPENDという形でのBM3です。
例によって、制作期間は1ヶ月。 山のようなディレクター仕事(主に雑用とか雑用とか雑用とか…×2機種分!!)の合間をぬってのプログラム作業は本当にしんどく、 「せめてこいつ(BM3)単体で企画を進められれば…」と何度も思ったものです。
6thMIX(bmIII版)公式サイト FROM STAFF T氏コメント
毎度の事ながら、1機種分の期間、予算、スタッフで2機種を作らなければならないという宿命を負った制作...
7thMIX(bmIII版)公式サイト FROM STAFF T氏コメント
そして、bmIII版THE FINAL公式サイトでは、サウンドディレクターの一人であるFujii氏(SLAKE氏)がbmIIIについて以下のように総括している。
BEATMANIA3はある意味悲劇的な機種であったような?あれだけのスペックを生かしきれなかったのが悔いが残ります。
しかしBEATMANIA3FINALこそが本当の意味での5鍵盤最終バージョンです。BEATMANIAの歴史をプレーしまくってください。
THE FINAL(bmIII版)公式サイト FROM STAFF Fujii氏コメント
初代筐体に搭載されたDJ MAIN基板の限界に縛られながら終了を迎えた五鍵ビートマニア。実は、ポップンミュージックでもpop'n3まではDJ MAIN基板を使用しており、pop'n4の段階で既存の筐体を用いたまま、基板だけFirebeatに交換することでスムーズにスペック向上を果たすことができている。
五鍵ビートマニアも、初代筐体を生かして基板だけFirebeatに交換する形を取れば、違った未来が開けていたのだろうか。スペック向上を図るための新筐体への移行はメーカーだけでは解決できない非常に難しい問題である。
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